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卒業文集、のはなし

ボジョレーヌーボー解禁。

ということで、ワインの話、と思いきや、卒業文集の話。

「ワインと卒業文集は寝かせれば寝かせるほど味が出る」とは、伊集院光氏の伝説的エッセイ、『のはなし』(宝島社、2007年)に出てくる言葉。

たしかに、小、中学校の卒業文集は、卒業してしばらくは、恥ずかしくて読めない。だが、おっさんの年齢ぐらいになると爆笑ものである。

卒業文集、といえば、たいていは学校生活の思い出を書くものである。しかしひねくれ者の私は違った。小学校の卒業文集では、当時NHKでやっていた「シルクロード」という番組が、いかにすばらしいか、喜多郎の音楽がいかにすごいか、みたいな話を延々と書いた。まったく、かわいげのない小学生である。

中学の卒業文集では、「水戸黄門は実は漫遊していなかった!」という文章を、講談調で書いた。みんなが修学旅行とか体育祭とか文化祭の思い出を書いているというのに、である。

いま思うと、「どうかしていた」としか思えない。年齢を重ね、しかも教員という立場になった今の私から見ると、「厄介な中学生だ」と思う。当時の担任だった国語の若林先生も、「やれやれ」という思いだっただろう。

その一方で、こうしたひねくれた行動が、今の仕事に大きな影響を与えているのではないか、と思うこともある。だから、卒業文集は寝かせるにかぎるのである。

作文といえば、こんな思い出もある。

中学3年の時、市のロータリークラブが主催する作文コンクールで佳作に選ばれた。賞と名のつくものをもらったのは、後にも先にもこの時だけ。

私の通っていた中学は、卓球部と陸上部が強く、大会で優勝すると、朝礼で校長先生から表彰された。表彰されるのは体育会系ばかりで、文化系の人間が表彰されることはまずなかった。

そこで初めて、私が文化系の人間として朝礼で表彰されるのである。ちょっと誇らしかった。

さて表彰の日。体育館で、全校生徒を集めて朝礼が始まった。舞台袖で、緊張しながら呼ばれるのを待っていると、担任の若林先生が近づいてきた。

「たった今、舞台裏で副賞の図書券が盗まれた。申し訳ないが、壇上では賞状だけを受け取ってくれ」

ええっ!どういうこっちゃ?

私の中学時代は、校内暴力の全盛期。しかも私の通っていた中学は、市内でも札付きの「ワル」中学だった。毎日、何かしら事件が起こっていた。だから舞台裏で、ほんの一瞬の隙を突いて図書券が盗まれる、というのも、さほど不思議なことではなかった。

それにしても、先生も先生だ。このセキュリティの甘さはいったい何なんだ。

壇上で校長先生から賞状を受け取ったが、嬉しさも半分である。

数日後、担任の若林先生に呼び出され、職員室へ行った。

すると先生は、「盗まれた図書券が見つかった」といって、2000円分の図書券を私に渡した。

いま思うと、本当は盗まれた図書券なんて、見つからなかったのだろう。若林先生が、自分のポケットマネーで図書券を用意したのだと思う。

それも、自分が教員になってみて気づいたことである。

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