時々思い出す場面
大学生の時に見た、「廃市」という映画。もとは福永武彦の同名小説である。
大学4年生の「僕」が、卒業論文を書くために、一夏を廃墟のような田舎の町の旧家で過ごすという話。そこで「僕」は、その旧家の娘、「安子さん」と出会う。
卒業論文を書くために、一夏を田舎町の旧家で過ごす、なんてことに、当時は憧れたものだ。実際、そんなことはありえないんだけれど。
夏休みも終わりに近づき、卒業論文の目途がついた「僕」は、いよいよこの廃墟のような町を離れることになる。そのときの、「僕」と「安子さん」との会話。
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「これでお別れね」と安子さんが呟いた。
「僕また来ますよ」と彼女の手を握りしめて、僕は熱心に言った。
「いいえ、あなたはもういらっしゃらないわ。来年の春は大学を卒業して、お勤めにいらして、結婚をなさって、ね、そしてこんな町のことなんかすっかりお忘れになるわ」
「そんなことはありません」
「そうよ。それがあなたの未来なのよ」
再び時間の歯車が素早く回転した。僕は訊いた。
「じゃああなたの未来は?」
「こんな死んだ町には未来なんかないのよ」
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結局、「僕」は卒業して就職してからというもの、一度もその町を訪れることはなかった。
自分が大学生の頃はさほど印象に残らなかった場面だが、最近になって、この場面をなぜかしきりに思い出すのである。
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