明日はクリスマスで、授業が休みだというのに、風邪が治らない。
そのせいか、いつもは10点満点を連発しているパダスギ(書き取りテスト)が、今日は7点だった。
昨日の一件も尾を引いているのかも知れない。
昨日、苦労して書いたクリスマスカードを先生に渡す。妻が日本から持ってきたチョコレートと一緒に。ふうん、という感じで受け取られる。
「猟奇的な先生」は、昨日の一件(携帯電話の投げつけの一件)があったからなのか、ややトーンダウンしている。学生をいじめるときも、私の顔をうかがいながら、という感じに見える。いや、私の思い過ごしかも知れない。
中国人留学生たちにも、妻が日本から買ってきたチョコをおすそ分けする。だが、イヤな予感が的中した。授業中にチョコを食べているのを先生に見つかり、チョコを取り上げられたのだ。
まったく、どうしてこう、怒られるようなことばかりするのだろう。せっかく君たちのために買ってきたのに、どうしてその好意を無にするようなことをするかね。
1時間目の後の休憩時間に、リュ・ピン君が質問してきた。
リュ・ピン君は、私の見たところ、うちの班の中で精神年齢がいちばん幼い。韓国語をあまり勉強しようとする意識がない。だから、半年くらいいても、韓国語が全然しゃべれない。
そのリュ・ピン君が、たどたどしい韓国語で私に聞いてきた。
「今日の夕方、何をしますか?」
どうして?、と聞くと、何かモゴモゴと言い始めた。
苦労して聞き取ると、どうやら、今日の夜、ヨジャ・チング(ガールフレンド)と市内に行くらしい。アジョッシ(おじさん)と奥さんも、私たちと一緒に市内へ行きませんか?とさそっているようなのである。
冗談じゃない。韓国語でコミュニケーションがとれない、高校生くらいの君たちと、なんでクリスマスイブにダブルデートと洒落込まなければいけないんだ、と心の中で思いながら、
「おとといね、引っ越しをしたの。それで、今日は、家具とかを買いに行かなければならないの」
「………???」
どうやら言っている意味がわかっていないらしい。
「だから、引っ越し(이사)、引っ越しね。引っ越してわかる?」
「………???」
「이사」の意味がわからないらしい。
しばらく考えた後、「トイレに行ってきます」と言って、あきらめて出ていってしまった。結局、彼は何を言いたかったのだろう。よくわからなかった。
後半の、ベテランの先生の授業。
3時間目が始まって30分たった3時半すぎ、問題児のリ・ヤン君が教室に入ってきた。
これ以上休まないと誓ったはずなのに、なぜ遅れてきたのだろう。
隣の席に座った彼に、「どうして遅れたの?」と聞くと、韓国語の知識をひけらかさんばかりに説明しはじめた。
「一緒に住んでいるルームメイトが、みんなソウルに行ってしまって、部屋で僕一人だったんです。いやあ、まいりました。3時15分に起きて、あわてて学校に来たのです」
どうもよくわからないが、起こしてくれる人がいなかったため、寝過ごしてしまったということらしい。
「どうして寝坊したの?昨日は何時に寝たの?」
てっきり、昼夜逆転して、朝方に寝たのかと思いきや、
「昨日の夜11時です」
という。すると16時間も寝ていたのか。私だって夜中の2時に寝たのに。それなら同情の余地はない。
彼らが、何で進級できないのか、ここへきて、だんだんわかってきた。
3時間目以降、すなわち、「猟奇的な先生」の授業が終わると、まるでたがが外れたように、彼らは騒ぎ出す。集中力がなくなってしまうのである。言ってみれば、一種の学級崩壊みたいなことになる。
その中心にいたのが、お調子者のマ・クン君なのだが、今日は彼がめずらしく欠席である。しかし、マ・クン君に代わってクラスをわかせたのは、ジャッキー・チェンにそっくりの、トゥン・チネイ君だった。
彼は、文法も単語もよく知っているが、発音が無茶苦茶である。中国語訛りの韓国語、といったらよいか。彼の声は大きいので、つい彼の発音がうつってしまいそうになる。
今日は、トゥン・チネイ君の「無手勝流の韓国語」が炸裂する。
後半の授業では、「食堂に来たときの注文の取り方」を実践する。3~4人が一組になって、一人が食堂の主人、残りの人が友達、という設定で、みんなの前で、アドリブで会話を進めていく。
だがこれが、まるで、即興の「食堂コント」なのである。
わが班の、人のよいバンジャンニン(班長殿)であるロン・ウォンポン君が、食堂の主人に扮し、そこへ、トゥン・チネイ君とトゥン・シギ君とリ・ミン君の「悪友3人組」が、入ってくる。
「いらっしゃいませ。こちらにお座りください。何を差し上げましょうか」とロン・ウォンポン君。
ここでいきなり、トゥン・チネイ君は、最初の設定をこわしはじめる。
「俺は一人で来たんだ。だから一人で注文するよ」
「でも、一緒にいらっしゃったでしょう」
「違う違う。いまここではじめて会ったんだ」
そうだそうだ、と他の二人も話を合わせはじめる。
ここで、まじめなロン・ウォンポン君は困ってしまった。
ここから、客の3人は、店の主人に無理難題な注文を次々とつけはじめるのである。
「俺は水だけでいいよ。食事は済ませてきたから」
とか、
「トッポッギ(棒状のお餅を甘辛い唐辛子味噌にからめた、韓国の代表的なおやつ)ある?」
「はい、ございます」
「味はどう?」
「当店のトッポッギはとても美味しいと評判でございます」
「あ、そう、俺、トッポッギ嫌いなんだ」
とか。これなどは「すかしの笑い」というものか。
設定を、友人ではなく、見知らぬ3人にしたことで、「おい、こっちの注文も聞いてくれよ」とか、「早くこっちに料理を持ってきてくれよ」とか、新しい笑いが生まれた。
誠実なロン・ウォンポン君は、3人が繰り出す無理難題に答えようと必死に対応している。その必死さがまた可笑しいのである。
ついに、店の主人は、彼らが矢継ぎ早に出す無理難題に困惑して、「早く帰れ!」と怒鳴って、この即興の「食堂コント」は終わる。
まるで、「ドリフの大爆笑」の人気コーナーだった「もしもシリーズ」(いかりや長介の「ダメだこりゃ!」のセリフで終わるコント)を彷彿とさせるものだ。
こうなると、韓国語を勉強しているのか、お笑いを勉強しているのか、わからなくなる。
ひとしきり笑った後、思い直す。「こんなんでいいのだろうか」と。
ここへきてやはり、彼らが進級できなかった理由がわかりはじめたのである。
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