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チャオ・ルーさんの得意料理

海外に長期滞在する場合は、外国人登録をしなければならない。この間、なかなか時間がとれなかったのと、精神的な余裕がなかったこともあり、なかなか登録申請ができなかったのであるが、今日の午前中に、大邱の出入国管理事務所に行くことにした。

さながら「はじめてのおつかい」である。出入国管理事務所の場所を探し、バスと地下鉄を乗り継いで、事務所へ行く。そこで、登録申請を行う。留学に慣れた人ならばどうということもないのだろうが、私にとっては、一大事なのである。

幼児語のような韓国語を駆使して(受付の人はずっと半笑いだったが)、申請を済ませた。たぶん、2週間後には登録証を受け取れるだろう。言葉が通じていれば。

午後の授業では、先日行われたクイズの結果が返された。私は25点中23点。となりのジョルスさんは、11点だった。

私の語学の勉強は、受験勉強でしか経験をしたことがないので、今の勉強の仕方も、そのやり方を踏襲している。大学時代、語学の勉強をほとんどしてこなかった。第2外国語のドイツ語は、2年生の後期に「不可」をもらったが、「平均点合格」なる制度のおかげで、3年生へギリギリ進学できた。そもそも語学をやるのがイヤだったから、語学から逃げて、今の専門に進んだといってもよい。

それが今になって、語学に悩まされるのだから、人生とはまさに「いってこい」(プラスマイナスゼロ)である。

ここへ来て、若き中国人留学生たちとの実力の差に悩まされている。

とくにベテランの先生による会話の授業では、中国人留学生はうまく会話できている。いろいろな単語もよく知っている。それにくらべて私は、なかなか言葉が出てこない。滞在期間の問題なのか、年齢の問題なのか、性格の問題なのか、それはよくわからない。

ただ一ついえることは、この年齢になったのだから、人一倍勉強しないとダメだということだろう。

さて、本日の会話の授業は、故郷についての話をさせられる。

といっても、内容は、もっぱら食べ物の話になってしまう。自分の故郷は、麺が美味しいとか、果物が美味しいとか。

私も、しどろもどろで日本の話をしていると、わが班で唯一の女性の、チャオ・ルーさんが食いついた。

「日本は桜が有名ですね」ということを言いたいらしい。

「日本には桜がいっぱいありますよ。春になると、みんなで桜の下で、食事をしたり、酒を飲んだり、喧嘩をしたりします」

だいたい、こんな感じのことを答える。知っている単語を並べただけだけど。

他の班は女性が多いのだが、わが班だけは、女性が1人しかいない。これはおそらく、留年した人たちが集まっているクラスだからであろう。だから、うちのクラスに入ると、とっても臭くてイヤだわ、と「猟奇的な先生」がよく言っている。

その中にあって、チャオ・ルーさんはとてもよく頑張っている。となりのマ・クン君のからかいも適当にあしらっているし、つまらないギャグには決して笑わない。韓国語もとてもよくできる。どちらかといえば、斜に構えた、クールな人、というのが第一印象である。

だから、日本の話に関心をもっているとは意外だった。

続いてベテランの先生は、学生の日常生活の話をきく。一人一人に、「家で料理は作りますか」と尋ねる。

もちろん男の子たちも、自分が作る料理を答えるのだが、印象的だったのが、チャオ・ルーさんの答えだった。

「コーラ・チキン」

ベテランの先生は、「何ですか?それは。私は知りませんねえ」と言う。

私はすぐにわかった。鶏肉をコーラで煮込んだ料理である。

この料理がどれほどメジャーなものかわからないが、少なくとも私は、何度も作ったことのある料理だ。鶏肉をコーラで煮込むと、ほどよい甘みがしみ込み、肉が軟らかくなる。私の好きな料理でもある。

思わず「コーラ・チキン!アジュマシッソヨ!」(コーラ・チキンはとてもおいしいね)と叫んでしまった。クールなチャオ・ルーさんも、思わず吹き出した。

会話がひととおり終わり、ベテランの先生が「みなさーん。他の国のお話を聞くと、知らないことがわかってとても面白いですねえ。どうですか」と言うと、チャオ・ルーさんは大きくうなずいた。

そうか。みんな、日本のことに興味があるのかも知れない。聞きたいことがたくさんあるのかも知れない。

しかし、わたしの言葉の力では、まだそのおもしろさを伝えることができない。申し訳ないと思いつつ、いつか、日本の話をおもしろおかしく教えてやろう、と、ひそかな決意を固めたのであった。

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