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マ・クン君の願望

ズボン下のことを関西では「パッチ」というが、これは韓国語の「바지(パジ)」(ズボンの意)から来ている。

昨年末、北京に遊びに行った際、あまりの寒さに耐えられなかった。それもそのはずで、ズボン下をはいていなかったからである。そもそも私は、「ズボン下をはくのは年寄りだ」という偏見を持っていたため、その時まで、ズボン下をはいたことがなかったのである。

そのことを、北京にいる同僚に話すと、「いま北京で、ズボン下をはいていない人なんていませんよ」、同僚の奥さんも「そうですよ。私なんか3枚はいてますよ」とたたみかける。

あわててズボン下を買い求め、はいてみると、これが暖かい。なぜ今まではかなかったんだろう、と後悔した。それ以来、冬にズボン下は手放せない。

韓国に来てからも、当然ズボン下をはいての生活。ところが、今日はうっかりはかずに外へ出てしまった。「暖かいから、ま、いいか」と高をくくっていたら、夕方になって急に冷え込み、途端に足が冷たくなる。やはりここでも、ズボン下を手放してはいけないことを痛感する。

ズボン下の話はどうでもよい。

本日の授業では、ベンジャミンさんとジョルスさんの2人の英語の先生が揃って受講する。

どうもこの2人が来ると、調子が狂ってしまう。お二人とも語学の先生ということもあり、語学の勉強にはどん欲である。そのためか、細かいことを気にせず、隙あらば喋ろうとする。

それ自体は、よいことなのかも知れない。

でも、「○○が○○にあります」という作文で、

「여자 친구 가 꿈 안에 있어요(ヨジャ チング ガ クム アネ イッソヨ)」

(恋人が夢の中にいます)

なんてアメリカンジョーク風に答えているのをみると、「ああ、この人とは友達になれないな」と思ってしまう。

「俺たちは、こいつらに戦争に負けたのか」と、筋違いな逆恨みもしかねない。

まあ、そこまで大胆にならないと、語学なんてマスターできないのだろう。こちらは相も変わらず、受験勉強みたいなやり方でコツコツ勉強しているからね。

「猟奇的な先生」も、こうしたアメリカンジョークには、いささか困っているようにも見受けられる。そして相変わらず攻撃の矛先は、「ベイビー」(中国人留学生)たちに向けられる。

今日の話も、いささか衝撃的であった。

言葉の意味がわからないところもあり、曲解しているところもあるかも知れないが、だいたい次のような話だったと思う。

「私の家では、魚を2匹飼っていたのだけれど、この2匹が喧嘩ばかりするので、頭に来て、1匹をトイレに流してしまった」と。

いや、たぶん私の聞き間違いかも知れない。「魚」「喧嘩」「トイレ」「殺す」という言葉が聞こえたような気がしたので、このようなことを言っていると、勝手に思ってしまったのかも知れない。

ただ、続いてこんなこともおっしゃった。

「リ・ヤン君は今日もお休みね。これでは進級できないわよ。先生が怒っていたと伝えておきなさい。もし明日休んだら、魚と同じようにトイレに流すからね、と」

いや、これも、「猟奇的な先生」の恐ろしさから来る、私の空耳なのかも知れない。

授業が終わって、「猟奇的な先生」が教室から出ようとすると、お調子者のマ・クン君が小さい声で、

「안녕(アンニョン)!」

と言った。「アンニョン」とは、友達に向かって言う挨拶である。

それを聞き逃さなかった「猟奇的な先生」は、

「いま、アンニョン、て言ったの、誰?」

と問いただす。

しかたなく、マ・クン君が自白すると、「猟奇的な先生」はマ・クン君の胸ぐらをつかんで、

「私とあなたは友達なの?え?どうなの?」

「…はい」

「え?え?」

「い、いえ…ち、違います」

「わかったらよろしい」

と言って出て行かれる。

マ・クン君は、わが班のムードメーカーである。

「昨日は○○をしました」という表現の勉強で、みんながあまりにも「昨日は韓国語を勉強しました」とか「昨日は図書館に行きました」と、型どおりの答えしかしないものだから、ベテランの先生が「もっと別の表現を考えなさい」とお怒りになる。するとマ・クン君は、

「昨日は飛行機を買って、中国に行きました」

と答える。「中国へ行って何をしましたか」という先生の問いに、

「果物を買いました」

と答える。

これには先生もあきれつつ爆笑。「恋人が夢の中にいます」よりも、はるかにこっちの方が好きだ。

そのマ・クン君には、恋人がいない。

あの、気の弱いリュ・ピン君にも、恋人がいることが判明したというのに。リュ・ピン君の彼女は、毎日リュ・ピン君のために料理を作っているという。勝手に純朴なイメージを作り上げていた私が馬鹿だった。

マ・クン君はコンプレックスからか、「여자 친구(ヨジャ チング)」という言葉を使った表現を多用する。「○○君には、ヨジャ チングがたくさんいます」「私には、ヨジャ チングがいません」など。よっぽどガールフレンドがほしいのだろう。今日、とうとう、ベテランの先生に、「韓国の女性を紹介してください」とお願いした。

「わかりました。もしあなたが2級のクラスに上がれたら、韓国の女性を紹介します」

これにはマ・クン君も大喜び。

果たしてマ・クン君は2級のクラスに上がれるだろうか。

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