砂をつかんで立ち上がれ
ありふれた日常になりつつある。
リ・ヤン君は今日も授業を欠席しているし、お調子者のマ・クン君は休憩時間に先生の椅子に座っていたところを「猟奇的な先生」に見つかり、今日も胸ぐらをつかまれている。
リ・ミン君は今日も授業中に寝てばかりいるし、リュ・ピン君は今日も授業中に宿題を内職していて「宿題は家でやりなさい」と先生に怒られている。ジャッキー・チェンにそっくりなトゥン・チネイ君は、今日も仲良しのトゥン・シギ君やジョウ・レイ君とおしゃべりばかりしている。
みんな、18歳から20歳くらいまでの学生たちだ。韓国の大学で本格的に勉強することを夢見ている。
2日間休んでいた男前のリ・チン君が授業にやってきた。なんでも、道を歩いていて、走ってきたオートバイと接触し、右腕を打撲したらしい。
そのリ・チン君は、いま悩んでいる。彼が韓国に来たのは1年前。うちの班の他の学生のほとんどが、韓国へ来て半年なので、彼は古株である。1年間の語学の勉強を終え、ようやく、韓国での大学の入学が決まりかけたところだが、彼は、このまま韓国で勉強を続けるか、それとも韓国での勉強をあきらめて中国へ帰ろうか、悩んでいるというのだ。
「韓国には友達もいないし、このまま韓国で勉強を続けていく自身がない」と、先生に弱音を吐いた。
けがをして、体が弱っているから、なおさらそんな気持ちにもなったのだろう。
ベテランの先生は、「韓国で勉強することも、中国で勉強することも、同じくらい大変なことよ。困ったことがあったらいつでも私に電話しなさい」と慰める。
自宅から大学に通い、なに不自由なく暮らしていた二十歳の頃の私ならば、彼の悩みの深さは想像もつかなかっただろう。そもそも、自分の中で「留学」という選択肢すら、考えていなかったのだから。
でもいまは、彼の気持ちが少しはわかる。日本での仕事をストップしてまで韓国で勉強させてもらって、果たしてモノになるのだろうか。何も得られぬまま帰国するのではないか。そんな思いにとらわれて地団駄を踏む毎日。
それでも、私には帰るところがある。それに、少しばかりの人生経験も。その分だけ、私は彼よりも恵まれている。
袖すり合うも他生の縁。一度は留学を夢見たのだろうから、彼にはなんとかあきらめずに頑張ってほしいと思う。でも、それを私の未熟な言葉では伝えられない。
だから、日本から来たアジョッシ(おじさん)が、若い学生に混じって孤軍奮闘している姿を存分にさらけ出していこう。たとえそれがぶざまであったとしても。
いつか、それが彼にも伝わるかも知れない。
中島らもは言った。「砂をつかんで立ち上がれ」と。
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