ひまわりの種
どのくらい伝わっているのかはわからないが、「猟奇的な先生」は本当にこわい。
ご自身でも、「自分は性格が悪い」とおっしゃっている。その通りである。
プライベートでは、絶対に友達になりたくないタイプである。
今日も、授業中よそ見していた学生の財布を取り上げた。
しかし、中国人留学生たちのあの態度を考えたら、それぐらいの厳しさは仕方がないかな、とも思う。
だがそのことを差し引いたとしても、そもそも「性根」がこわいのである。
その、「猟奇的な先生」に昨日見はなされた、問題児のリ・ヤン君が、今日も、後半のベテランの先生の授業にのみあらわれた。
「リ・ヤン。前半の授業に出てなかったの?」とベテランの先生。
「はい、昨日、キム先生に、『あんたなんか私の学生じゃない』と言われまして…」
バッカじゃなかろうか、と思う。「あんたなんか私の学生じゃない」と言われて、「ああそうですか」と引き下がるやつがどこにいる?
落語の世界だって、師匠に
「お前は破門だ!」
と言われて、弟子が
「ハイ、わかりました」
と言うやつがいるか?そんな時は、師匠に土下座して、
「師匠、もう一度私にチャンスを下さい!」
と言うだろう。
それでも先生がわからんちんだったら、こちらから見切りをつけるなり、語学院の院長先生に訴えるなりすればよいのだ。
自分の勉強の機会が失われていることに対して、何の危機意識も持っていないのだろうか。
まあ、リ・ヤン君に落語の喩えで説教してもわかるはずもないのだが。
それに、相変わらず、授業中にずっと左隣のジョウ・レイ君と中国語で私語しているのだから、何を言っても変わらないだろう。
そんな中、私の中での株が上がっているのが、お調子者のマ・クン君である。
昨日、マ・クン君は、服とズボンと靴を買おうと、ひとりで市内の市場に出かけた。
タクシーの運転手に行き先を告げるのだが、発音が悪いので、何度言ってもわかってくれない。
押し問答の末、韓国語の上手な友達に携帯電話で電話して、運転手に、携帯電話越しに友達から行き先を告げてもらい、ようやく運転手も納得。
やっとのことで市内の市場に到着。そこで、とても気に入った靴を見つけた。
どうしても欲しかったので、靴を買ったら、服とズボンを買うお金がなくなってしまったという。
「いくらで買ったの?」と先生が聞くと、
「45万ウォン(約45,000円)です」と答えた。
これには先生もびっくり。「学生が買うのに、そんな高い靴なんてないわよ。絶対騙されているわよ」
「でも、僕は韓国語がよくわからないので…」
「外国人だからって、ぼったくられたのね。そういうときはまけてもらうように交渉するのよ。それが難しかったら、韓国人の友達と一緒に行きなさい」
マ・クン君も、ようやく自分が騙されていたことに気づいたようだ。しかし貧乏学生の分際で45,000円の靴とは、恐れ入る。
先生はこうもおっしゃった。
「靴だけ買って、服は買わなかったの?せっかく新しい靴を買ったって、着る服がなかったら、ダメじゃないの」
まるで、ビートたけし氏の「浅草キッド」という歌に出てくる、
「同じ背広をはじめて買って
同じ形の蝶タイ作り
同じ靴まで買う金はなく
いつも笑いのネタにした」
を地でいく行為だ。
そんなマ・クン君が、休憩時間にポケットから何か出して、私にくれた。
「ひまわりの種」である。
日本ではあまり食べる機会はないが、中国の人たちは、ひまわりの種をよく食べるという。
「これ、どうしたの?」
「韓国では、売っていないのです。だから、中国からプモニム(両親)が送ってくれたんです」
といいながら、ポケットからさらに大量のひまわりの種を出す。
中国の両親が、わが子のために送ってくれた、ひまわりの種。ありがたくいただく。
ポリポリと食べながら思った。でも仕送りしたお金で息子が45,000円の靴を買った、という話をご両親が知ったら、どう思うだろうか、と。
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