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冷凍庫の中の国宝

ソウルの博物館で研究官をしておられるキム先生のご実家は大邱である。

キム先生は、私より5歳ほど上の、ほぼ同世代の研究者、といってよいであろう。2年前、1年間ほど日本で研修されたときにお話しするようになり、「韓国にいらしたら、必ず私が案内しますから」と言っていただいた。

そのキム先生からお電話をいただいたのは数日前。ソルラル(旧正月)で実家に帰るので、24日(土)に、一緒に踏査に行きましょう、といっていただく。

旧正月に暇をもてあまし、しかも車が運転できない私にとっては、願ってもないことである。

1月24日(土)。

午前10時半に待ち合わせて、大邱から車で1時間半ほどの、ボハン(浦項)市というところに向かう。そこには、韓国でも最古の石碑(6世紀初め)がある。

この石碑は、いまからちょうど20年前、畑の耕作中に発見されたもので、自然石に231文字の漢字が刻まれている。現在は韓国で国宝に指定されている。

Photo_2 現在は、その町の町役場の前に、覆屋が作られ、そこに置かれている。

特別に覆屋の鍵を開けてもらい、中に入って、間近に石碑を見せていただいた。

Photo_3 まったく関心のない人からみれば、ただの石かも知れない。しかし私たちは、1時間ほど、この石に刻まれた文字を観察した。国宝を間近に観察できるなんて、そうあるものではない。

ところが、このときの気温は、おそらく氷点下10度近く。吹きっさらしの、まるで冷凍庫の中のようなところに、1時間近くいたことになる。メモをとる手が寒さで刺すように痛くなり、文字が書けなくなり、やがて手が赤くなる。

このままでは、冷凍肉になってしまう。

Photo_4 もう限界!とばかりに、目の前にある町役場に飛び込んで、石油ストーブにあたらせてもらう。

役場にいた方とご挨拶して、名刺を交換すると、その肩書きに「神光面長」とある。

といっても、べつに面長(おもなが)の方ではない。「面」とは、日本でいう「町」にあたる。つまり、「神光面」という町の、町長さんであった。

「韓国では、冬に踏査をしない方がよい」と、以前、韓国に留学経験のある研究者仲間に言われたことがあったが、そのことを実感した。あまりの寒さに、踏査どころではないのである。

昼食後、次の予定地に向かおうとする車の中で、私は言った。

「そういえば、先ほどみた石碑は、20年ほど前にどのあたりで発見されたんでしょうかね」

この言葉に、キム先生は反応した。

そこから、捜索が始まる。

キム先生の聞き込みの結果、ついに、その石碑を発見した、という人の家をつきとめたのである。

Photo_5 その家に行ってみると、ハルモニ(おばあさん)がいらっしゃった。聞くと、息子さんが耕作中に見つけた、という。

そして、ハルモニは、その発見場所まで案内してくれるという。

ハルモニに車に乗ってもらい、当時の発見場所まで案内していただく。

Photo 少し丘を登った場所に、その発見場所はあった。ハルモニは、「このあたりだ」と指をさしてくれた。

しかしいまはなんの面影もない。次にまた来いと言われても、たぶんわからないと思う。

せっかくなので、ハルモニと一緒に、発見場所で記念写真を撮ってもらった。

数十年後にその写真を見たら、「なんでこのおばあさんと一緒に、何もないところで写真を撮ったんだろう?」ということになるだろう。

でも、発見場所をたずねた人は、おそらくほとんどいないだろう。

ハルモニにお礼を言って別れる。

Photo_7 次に向かったのは、慶州の郊外にある、とある有名な書院。書院とは、朝鮮時代の儒教的建築物のことである。

Photo_8 書院に隣接して生活しておられるお宅で、こんなものを見つけた。

では、ミステリーハンターから問題。

Photo_9 いったいこれは何でしょうか?

世界ふしぎ発見!

夕方、大邱市内にもどり、キム先生の研究仲間の方たちと夕食。久々にお会いになったようで、話が弾んでいる。

例によって、聞き取れない話が続く。

途中、「私たちの話していること、聞き取れますか?」とキム先生が、こっそりと私に話しかける。

「一生懸命聞き取ろうと頑張っているんですけど、全然ダメですね」

「そうでしょう。私が日本にいたときも、日本人同士の会話は、全然わかりませんでしたから」

優秀なキム先生でも、やはりそうだったのか、と思い、少し安心する。

そして夜8時頃に解散。

「今日はとても充実した1日でした」

「また一緒にまわりましょう」

そう約束して、お別れした。

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