おでんと熱燗の夜
5日ぶりの授業にきたのは、わずか5人。
パオ・ハイチェン君、リュ・ピン君、パンジャンニム(班長殿)のロン・ウォンポン君、リ・ミン君、そして私。
欠席者が多いのは、5日前の一件があったからなのかどうかは、わからない。
「猟奇的な先生」は、あきらめムードなのか、いたって平穏に授業を進める。
そして5人なので、授業の進むスピードも速い。予定のところがあっという間に終わってしまう。
こういうときには、フリートークになる。
今日は、「助ける」という動詞を習った。そこで「猟奇的な先生」は、「みなさんは、韓国へ来て、誰かを助けたことがありますか?」と、多少むちゃぶりな質問をする。
そこで、1週間くらい前のことを思い出した。
バスの停留所でバスを待っていた時のこと。アジュンマ(おばさん)が、「○○へ行くには、何番のバスに乗ればいいのかしら」と私に聞いてきた。
たまたま私は、その場所を知っていたので、「○番のバスに乗ればいいです」と答えた。
つまり、韓国人にバスの乗り方を聞かれ、それに対して答えたのである。
そのことを、苦労しながら話すと、先生は意外な顔をした。
「アジュンマは、韓国人と思って話しかけてきたのかしら」
「そうだと思います」
「で、教えたバスは、本当にその場所に行くバスだったの?」
「はい」
疑り深い人だ。
その話で思い出したのか、今度は先生がおもむろに話しはじめた。
「そういえば、私が日本に旅行に行ったとき、東京で、みんながやたら私にばかり道を聞いてきたのよねえ。どうしてかしら」
それは美人だからですよ、と合いの手を入れようとしたが、バカバカしいのでやめた。
「で、あまりにいろんな人が道を聞いてくるものだから、最後は面倒くさくなって、『○○はどこですか?』と聞かれて、『あっちの方です』って、適当な方角を指さして教えてあげたのよ。本当はそんな場所なんて知らないのに」
一同はあきれつつも爆笑。そこでちょうど授業時間が終わり、「猟奇的な先生」も、気分よく帰っていかれた。
後半の授業。ベテランの先生はすでにおいでになっているというのに、学生はなかなか戻ってこない。
しばらくして、みんなが休憩から戻ってきた。するとパンジャンニムが、両方の鼻の穴に、ちり紙をつめている。
まるで、鼻の下に白髭をたくわえた人みたいになっている。
ベテランの先生が驚き、「どうしたの?鼻血?」と聞くと、
「いいえ、鼻水です。大丈夫です。気にしないでください」
気にしないでくれ、て言われても、その顔はインパクトがありすぎる。顔が面白すぎて、授業に集中できない。だがパンジャンニムは、そのままの状態で、授業を受けつづけた。
金曜日のことがあったためか、ベテランの先生が気にされて、再び、みんなを励ます。
「あらためてこれまでの点数を見てみたけど、今のままでは、合格点に少しだけ届いていないのよ。だから、期末考査を、一生懸命がんばりなさい。9割以上とらないとダメよ」
彼らに9割以上とれ、というのは、それ自体無理な話ではないか、と思うのだが、まあ、最後まであきらめるな、ということをおっしゃりたいのだろう。
ベテランの先生のアドバイスを、パンジャンニムも真剣に聞いている。
しかし、両方の鼻の穴にティッシュを詰め、白髭をたくわえた人みたいになっている顔は、およそ人の話を真剣に聞く人のようにはみえない。
先生とパンジャンニムの両者が、ともに真剣であるだけに、なんとも滑稽である。
授業が終わり、ウさんを含めた大学院生3人と、お酒を飲みに行く。
日本風の居酒屋である。店の前には、「おでん」と書かれた赤ちょうちんもある。
メニューには店の名前が書いてあるが、「HIGA」とあり、そのしたに「火が」と表記している。
「火が」という店名らしい。火が、どうした、というのだろう。
それはともかく、この店でおでんと、徳利に入った熱燗をいただく。日本と微妙に味が異なるが、でも、居酒屋の雰囲気を十分堪能できた。
しかし、相変わらず私の韓国語はまったく使いものにならない。思いきって、冗談も言ってみたりしたのだが、その冗談に笑ったのか、私の韓国語が珍奇なことに笑ったのか、定かではない。
そのあと、店を変えてビールを飲む。気がつくと10時をまわっていた。
いつものように、いい人たちと楽しい時間を過ごせたという思いと、韓国語が思うようにできないことに対する「死にたい気持ち」がない交ぜになりつつ、みなさんとお別れした。
明日の昼食もご一緒することを約束して。
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