まつりのあと
以前、本屋で立ち読みした、板尾創路氏の『板尾日記』の某月某日のところに、
「今日は書くことはなにもない」
みたいなことが書いてあって、思わず吹き出したことがある。板尾氏らしい書き方だ、と思ったが、そりゃそうだ。そう毎日、面白い出来事があるはずもない。
今日は一日、まったく何もせずに過ごす。昨日からの鬱々とした気持ちも手伝って、体が動かない。咳も止まらない。
『ナナのネバーエンディングストーリー』を読もうとするが、これって、どうもハーバード大学の留学体験記みたいなのね。自分が頑張って、いかにオールAをとって卒業できたか、みたいなことが、書かれているようだ。まだちゃんと読んでないが。
「はいすくーる落書き」みたいなこちらの留学体験と重ね合わせると、さらに落ち込んでしまうような気がした。
夜、少し散歩に出ると、子どもが私に拳銃を向けてきたのでビビった。よくみると、オモチャの拳銃だった。ソルラルに、プレゼントでもらったものだろうか。
空いている店と閉まっている店が半々くらいだった。明日からは、通常営業になるのだろう。明日からまた学校か、と思うと、ますます憂鬱になった。
「『サザエさん』を見ると、『あー、明日から学校か…』と思って少し憂鬱になる」っていうのは、私の世代の「あるあるネタ」だったけど、下の世代では、それが「ちびまる子ちゃん」だったり、「さんまのからくりテレビ」だったりするようである。いまの学生にも、そういう「あるあるネタ」って、あるのかね。
昨晩、何とはなしに見ていたテレビで、例によって韓国映画をやっていた。若者たちが、金持ちのおばあさんを誘拐することで巻き起こる、ドタバタコメディのようだ。
なんか見たことあるぞ。天藤真原作、岡本喜八監督の「大誘拐」じゃないか?
そう思って、あとで調べてみると、たしかに、「大誘拐」のリメイクだった。タイトルは、
「クォン・スンプン女史拉致事件」
タイトルだけ見ると、なんか恐ろしい事件を扱った映画のような気がするが、全然そうではない。完全なコメディである。
私は「大誘拐」に出ている、北林谷栄という女優が好きだ。
「日本で一番好きな女優は?」と聞かれれば、おそらく「北林谷栄」と答えるくらい、好きな女優である。
山田太一脚本、田宮二郎主演のドラマ「高原へいらっしゃい」に、ホテルの従業員役で出ていた北林谷栄の演技は、秀逸である。リメイクの時に大山のぶ代が演じていたが、申し訳ないが、足元にも及ばない。
今井正監督の「キクとイサム」(1959年)や「橋のない川」(1969年)でも、北林谷栄はおばあさん役で出ている。とすると、かれこれ50年近くも老け役をやっていた、ということか。
一番最近では、南木佳士原作、小泉堯史監督の映画「阿弥陀堂だより」の演技が印象的だ。個人的に南木佳士の小説が好きな私にとって、南木佳士、小泉堯史、北林谷栄の組み合わせは、私のためにある映画か?というくらい、もう涙ものである。
ロケ地になった長野県・飯山市の阿弥陀堂まで訪ねていったくらいだから。
どうだ、マニアックすぎてわからないだろ。
さて、韓国版の「大誘拐」。こちらの方も、文句なく面白い。
主役のおばあさんを演じるのが、ナ・ムニというベテラン女優。ドラマや映画では引っ張りだこの女優である。北林谷栄とは、やや趣が違うが、韓国で「大誘拐」をリメイクするのだとしたら、やはりこの人以外には考えられないだろう、と私も思う。
そして、なんといっても、誘拐する若者役で出ているユ・ヘジンが可笑しい。「里長と郡守」でも主役をつとめた彼は、どちらかといえば、地味で、不細工な顔だちだ。しかし、彼の真剣な演技は、そこはかとなく可笑しいのである。
調べてみると、彼は苦労人だったようだ。売れない時期が続いたのだろうが、彼のおもしろさが、いまでは正当な評価を得ている、と思う。
(さらに調べてみると、この人、私と同い年で、誕生日が3日違いなのね)
くり返すが、彼の顔はかなり地味で不細工である。でも、映画での演技はすばらしく、可笑しい。
さあ、明日からまた授業を頑張ろう。
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