誕生日の初舞台
1月7日(水)
昨日恐れていた「試練」は、なんとか回避できた。なのでこの話はおしまい。
今日の文法の授業(「猟奇的な先生」)では、「何が好きですか?」「何が得意ですか?」という表現を学ぶ。
スポーツでは何が好きですか?という質問に、本当は好きなスポーツなんてないのだが、「相撲と水泳」と答えた。考えてみれば、両方とも裸のスポーツだ。嫌いなスポーツはなんですか?の質問に、「ゴルフです」と答える。こっちは、本当。
続いて、「何が得意ですか?」という質問。何のとりえもない私にとって、これほどつらい質問はない。私の前に、お調子者のマ・クン君が「ノレ(歌)」と答えていたのにならって、私も「ノレ」と答えた。
これがいけなかった。
つづく「会話」の授業で、ベテランの先生が、授業のはじめにこんなことを言った。
「今日は時間があるので…、マ・クン君、1曲歌ってください!」
まるで、文法の授業であったことを知っているかのような展開だ。どうも、「猟奇的な先生」と「ベテランの先生」は、情報交換をしているようだ。
マ・クン君は、愛嬌のある顔に加え、芸達者である。将来はお笑い芸人になればいいのに、と思うくらい、天賦の才がある。
そのマ・クン君が、教壇に立って、みんなの前で中国の流行歌(ポップス?)を歌いはじめた。マ・クン君の歌のうまさは、他の中国人留学生たちの間でも定評がある。さすがはマ・クン君である。
マ・クン君の歌を堪能したあと、ベテランの先生が授業をはじめようとすると、歌い終わったマ・クン君が「ソンセンニム(先生)!」と叫んだ。
「ソンセンニム!アジョッシも歌が得意だそうです!」
アジョッシとは、私のことである。
他の人たちも、それを聞いて拍手している。
じ、冗談じゃない。昼の日中っから、教室で歌など歌えるか!
マ・クン君の提案を聞いたベテランの先生が、私を見ておっしゃる。
「ヘボセヨ(歌いなさい)…ヨロブン、パクス!(みなさん、拍手!)」
「のどが痛いから」と言い訳をいっても、もう逃れられない状況になった。
文法の授業のとき、「ノレ」と答えていなければ…と後悔する。
だが仕方がないので席を立って、教壇にたつ。
「すいません。…マイク、ありますか?」
ホワイトボード用のマーカーをマイク代わりに、日本の歌を歌う。
歌った歌は、「いとしのエリー」。
別にそんなに思い入れのある歌ではないのに、カラオケのレパートリーというわけでもないのに、なぜかこの歌を歌ってしまった。
自分でもなぜこの歌にしたのかわからないが、日本の「ロック演歌」の最高峰だ、という意識があったからだろう。
でも、うろ覚えなので、めちゃくちゃな歌詞で歌う。
サビの部分を歌っているとき、ふと頭によぎった。
「そういえば、今日は、俺の40歳の誕生日だった…」
40歳の誕生日に、俺は何をしているんだろう。
韓国の教室で、昼の日中っから、若い中国人留学生たちの前で、むちゃくちゃな歌詞で「いとしのエリー」を歌う、とは。しかもアカペラで。鼻声で。
なんとも情けなくなってきた。
歌い終わって、まばらな拍手をもらったあと、ベテランの先生が「この歌は日本で有名な歌なのですか?」と聞いたので、「はい、日本人なら誰でも知っています。タイトルは『いとしのエリー』です」と答えた。
中国人留学生たちは、「いとしのエリー、いとしのエリー」と、歌のタイトルを覚えようと、何度も口にしていた。
それにしても、中国人留学生たちもかわいそうだ。
鼻声で、音程のはずれた、むちゃくちゃな歌詞の「いとしのエリー」を、日本の有名な歌だ、と言われて聞かされたのだから。
これから中国では、間違った「いとしのエリー」が歌われるようになるかも知れない。
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