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古本屋の嗅覚

今日も逃避行動が続く。

3月に一時帰国するのにそなえて、「再入国許可」を申請しに、出入国事務所に行く。

いろいろ調べてみると、この「再入国許可」がないと、日本に戻った時点でビザが失効し、再申請しなければならない、という面倒なことになるのだという。それを知らずに一時帰国をした人が大変な目にあった、というのを、ある人のホームページで読んだ。

無事、再入国許可をもらう。

その後、市内に出る。恥ずかしながら、どうしても気になっていたCDがあった。

まえにテレビを見ていたとき、ユンナという10代の歌手が、岩崎良美の「タッチ」を、完璧な日本語で歌っていた。ピアノもダンスもまた、完璧である。

私は「タッチ」にも「ユンナ」にも、まったく思い入れがないのだが、その才能に舌を巻いたのである。それを見て以降、ずっと気になっていた。

日本では、ユンナという歌手は有名なのだろうか。

CDショップで、ユンナのCDを見つけて、手に入れる。

さて、帰ろうかと思ったが、また一つ思いつく。

以前、大学院生のウさんから、大邱にも古本屋がある、という話を聞いた。「市役所の北側に、何軒かあります」と。

そのことを思い出し、古本屋に行くことにした。

私は昔から、古本屋の嗅覚に関しては自信がある。東京で大学院生をしていたとき、あまりに時間をもてあましていたので、「中央線沿線の古本屋を全部まわろう」と考えたことがあった。

最終的には、八王子のさらに先の、西八王子という駅の近くにも古本屋があることを確認し、そこで「中央線沿線古本屋めぐり」は終了。

のちに、西八王子に実家のある同僚にその話をすると、「西八王子に古本屋なんてあったんですか」と、ビックリしていた。

地方に旅行に行ったときも、時間があるときは古本屋を探す。

しかし、ときにその嗅覚も鈍ることがある。

やはり大学院生時代のこと。大学院の先輩と香川県の高松というところに調査に行った。調査が終わり、夕方、高松の商店街を歩いていると、「古本」という看板を見つけた。

私もその先輩も、その看板を遠くから見つけ、その店にわれ先にと駆け寄る。

しかし、その店には、本など置いてなく、呉服が並べられている。

あらためて看板を見ると、「呉服屋 古本(ふるもと)」という店だった。

奇しくもその先輩は、その後香川県に就職したが、おそらく20年近くたったいまでも、あのときのことを覚えているだろう。

さて、「市役所の北側にあります」という言葉だけをたよりに、古本屋を探すことにする。

ウロウロと歩いて、古本屋を見つける。何軒か軒を連ねているようだ。

やはり嗅覚は鈍っていないな。

薄暗い店の中に、埃っぽい本がうずたかく積まれていて、気むずかしそうなアジョッシ(オヤジ)が座っているという光景は、日本のそれと変わらない。

勇気をもって中に入る。

2,3冊手に取るが、どれも値段が書いていない。

結局、買う勇気が出ず、店を出る。

2軒目の店。ここにも気むずかしそうなアジョッシが座っている。

店内をウロウロしていると、「お客さん、どんな本を探してるんです?」とアジョッシが話しかけてきたので、「いえ、別に…」といって店を出た。

3軒目にも入るが、買わずに見送り。

4軒目は、それまでの3軒と違って、店内がやや明るい雰囲気である。アジュモニ(おばさん)が座っていて、近所のアジュモニと茶飲み話をしている。

何冊か買うことにする。だが、やはり値段が書いていない。

アジュモニは、本を見ながら、うーん、と考えて、値段を言った。言い値なのか?

お金を支払って本を受け取ると、私に何か話しかけている。どうも、「隣の倉庫を見ますか?」と聞いているらしい。

言われるがままにアジュンマについて行くと、店の隣にあるガレージのシャッターを開けた。

ガレージの中は、まさに本の倉庫、といった感じである。

自分の専門に近い本もかなり置いてある。もちろん、それ以外の本も多い。

専門の本を手にとって見ていると、アジュンマが言った。

「ここにある本、もとは全部1人の人が持っていたんですよ。でも、トラガショッソヨ」

「トラガショッソヨ」とは、直訳すると「お帰りになりました」だが、日本語で「お亡くなりになりました」という意味にもなる。語学の授業で習った。

「その方は、学者だったんですか?」と私が質問すると、

「いえ、学者ではなかったみたい」とアジュンマは答えた。どんな人だったんだろう。

また、数冊購入することにした。例によってアジュンマは、うーん、と考えて、値段を言った。

ふっかけられたかな?こういった場合、「まけてくれ」と言うべきなんだろうか。でも決して法外な値段ではなかったので、言われるがままに支払う。次からはまけてもらうように交渉しよう。

明日から2日間、私の通っている大学で学会がある。その次の日(土曜日)には久しぶりのタプサ。そしてその翌日からは釜山。

逃避行動も、ここまで。

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コメント

 k-popはお任せ下さい。ユンナはまず日本で「流れ星」でデビュー。疾走感のある良い曲です。タッチはその後でしたか。その後韓国に戻り、ショートカットのボーイッシュなスタイルながら、ピアノ弾き語りにバックバンドという形で、結構歌番組にも出ています。
 古本と言えば、昨日たもかく(只見木材加工組合)代表の吉津さんの講演会に行ってきました。「本と森の交換(古本を送ると只見の雑木林が買える)」という斬新なアイデアで一世を風靡した人です。細身の外見と裏腹に、とても熱い人でしたよ。

投稿: こぶき | 2009年2月12日 (木) 12時19分

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