早口の映画談義
不思議なもので、3カ月も韓国にいて、しかも中国人留学生たちと一緒に勉強していると、顔を見ても、誰が韓国人で、誰が中国人で、誰が日本人で、という区別が、ほとんどなくなってしまう。
みんな、私の知り合いに似ているような気がしてくるのである。「あ、こいつ、教え子の○○にそっくりだな」とか、「こいつ、お笑い芸人の○○にそっくりだな」とか。
むしろ「違い」よりも近縁性の方が強調されてくる。
中国人、韓国人、日本人は、国によって顔つきが違う、などというものの見方が、多分に先入観や偏見を含んでいることを思い知らされる。
さて、2級の授業は、想像以上に厳しい。
後半の大柄な先生が、ニコニコしながら、こんなことをおっしゃった。
「いいですかみなさん。これから宿題は、授業が始まる1時前までに、必ず提出してください。1時を過ぎて提出した宿題は、(10点満点から)2点減点しますよ」
これまで宿題は、パンジャンニム(班長殿)が授業の始まる前に集めて、1時間目が終わった休み時間に提出するのが常だった。先学期の1級1班などは、4時間目の授業が終わってからようやく提出する、などということもざらであった。
しかしこれからは、1時前までにパンジャンニムが集めて提出までしなければならないことになる。ということは、12時50分までには教室に入り、パンジャンニムに宿題のノートを渡さなければならなくなるのである。1時ギリギリに教室に入ると、すでにパンジャンニムが宿題を集め終わって先生に提出してしまっている可能性も出てくるのだ。
些細なことかも知れないが、何という厳しさだろう。だんだん厳しくなっていくではないか。
宿題の量も、1級にくらべて多くなっている。だから、こんな日記など書いている場合ではないのだ。
前半の「粗忽者の先生」の授業。
週の火曜日と木曜日の前半の授業は、文法ではなく、「トゥキ」といって、リスニングの授業である。
先生が授業をはじめようとしたところ、リスニング用のカセットデッキを操作しながら、「おかしいわね」とおっしゃった。
「あら、間違って他の先生のカセットデッキを持ってきちゃった。だから操作方法がわからなかったのね。まあいいわ。これではじめます」
と早口でおっしゃる。他の中国人留学生たちも、この先生の粗忽ぶりをだいぶ把握するようになったらしく、「またかよ」という感じで笑っている。
これまで、2級の授業が息つく暇もないと感じていたのは、雑談がほとんどなかったことによるものだった。1級の「猟奇的な先生」もベテランの先生も、適度に雑談があったおかげで、息抜きができたのである。そこが、ほとんど強迫的に、せき立てられるように問題を出される「粗忽者の先生」との違いである。
しかし今日は、若干時間に余裕があったようだ。
リスニングのテーマは、「レンタルビデオ屋での会話」。日本人の留学生が、面白い映画を見たくて、店員のアジョッシ(おじさん)におすすめの映画を聞くと、アジョッシは「『タイタニック』はどう?」と勧める。「その映画は見たので、韓国映画で面白いものはないの?」と聞くと、「じゃあ『シュリ』はどう?」と勧める、という内容である。
『タイタニック』(1997)や『シュリ』(1999)が登場するあたりは、時代を感じさせるが、ここから、韓国映画に関する先生の雑談がはじまる。
「みなさん、どんな韓国映画を見ましたか?」
すかさず私が「猟奇的な彼女」と答える。
ひとしきりその映画の話で盛り上がった後、「みなさん、ここに出てきた『シュリ』は見ましたか?」と、再び先生が質問。
見たのは私くらいで、他の中国人留学生たちは見ていなかったようだった。
「面白いからね、絶対見なさいよ。これはね、女スパイの話よ。スパイ。男と女がね…」
と、「粗忽者の先生」は、ネタバレともいえる話をしはじめた。途中で、はっと気づき、
「あら…、面白いからね。見てない人は絶対見なさいよ!今日見なさい。今日!」
と、早口でおっしゃる。なにも今日見なさい、ということもないだろうに。
「女スパイといえばね、大韓航空機事件、知ってる?1987年にあったのよ。爆弾よ、爆弾。みんな、その頃何してた?」今度は唐突に大韓航空機爆破事件の話。
「生まれてませーん」と、中国人留学生たちが声を揃えて答えた。
「あら、生まれてなかったの?」今度は私に向かって聞いた。「その頃何してました?」
「高校生でした(正確には浪人生)」
「じゃあ、ニュースを見てたわよね」「ええ」
最後に先生はこうおっしゃった。
「みなさん、韓国の歴史を勉強しなさいよ。韓国のことをよく知れば、韓国語の勉強も楽しくなるわよ」
そうか。私が中国人留学生たちに唯一まさっているのは、人生経験、ということか。
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