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サトゥリ

私が使わせてもらっている研究室は、博物館の中にあるので、防犯上の関係から、平日は夜7時くらいになると玄関が閉まってしまう。土、日は終日、鍵がかかってしまう。

午後の時間のほとんどを語学の授業にあてているため、なかなか研究室でじっくり勉強することができない。午前中とか、授業が終わった5時以降に、おもに使用することになる。

いつもはだいたい鍵が閉まる7時前には出ることにしていたのだが、ここ1,2週間は、夜9時くらいまで研究室にいた。

玄関を出ようとすると、鍵がかかっている。鍵といっても、扉の内側に閂をかける、という原始的なものなのだが、守衛さんに声をかけないと、外に出ることができない。その時、はじめて守衛さんと会話を交わすことになった。

守衛さんといっても、高齢のアジョッシ(おじさん)である。管理の都合上、博物館に毎日泊まり込んでいらっしゃるらしい。

自分の身分を説明して、これからも遅く帰ることがありますよ、と言うと、わかっていただいたようで、気安く話しかけてくれた。

ところが、この方の訛りがひどくて、何をおっしゃっているのか、よくわからない。ただ、どうやら好意的であることはたしかなようだ。

「土曜日とか日曜日も、入れてもらえますか?」と聞くと、やはり何ごとかおっしゃったが、どうも、「大丈夫だ」とおっしゃっているらしい。

大邱を含めた慶尚道は、訛り(サトゥリ)がきついところだ、と、留学前にさんざんおどかされてきた。もちろん語学学校では、標準語を教えてくれるのだが、市場などに行けば、サトゥリを聞くことができる。また、年配の職員の方の中にも、ときおりサトゥリのきつい方がおられる。

で、何度か、夜遅くまで残っていると、そのたびに、そのアジョッシに鍵を開けてもらうことになる。

「今日もよく勉強したね。夕食はまだかい?」

「ええ、これからです」

「じゃあ、早く食べないと」

「はい、ではさようなら」

といったようなニュアンスの会話をする(サトゥリがきついので、多分に推測が含まれる)。

でもまあ、守衛のアジョッシに顔を覚えてもらったので、これからは多少の融通は利くことになったわけだ。かくして、守衛のアジョッシとの不思議な交流がはじまる。

この前の金曜日、2級4班の親睦会があるため、6時過ぎに建物を出ると、守衛のアジョッシが、

「おや、今日はずいぶん早いね」

と声をかけてくれた。

「ええ、約束があるので」

「明日(土曜日)は来るのかい?」

「明日は晋州に行かなければならないので」

「あ、そう。日曜日は?」

「日曜日は来るかも知れません」

「あ、そう。こっちは土曜日でも日曜日でも大丈夫だから」

守衛のアジョッシは、そうおっしゃってくれた。

3月29日(日)。

アジョッシの言葉が気になって、何となく日曜日も研究室に行かなければならないような気がしていたのだが、ここのところ、休みがなかったので、どうも研究室に行く気がしなかった。つい市内へ出て、散歩がてら本屋に行ってしまう。本当はやらなければならないことが結構あるのだけれど。

そして、夜は、家で映画「チング」を見る。

かなり有名な映画なのだが、まだ見たことがなかった。なんといってもこの映画は、釜山を舞台にしているので、釜山訛りのセリフ回しが映画全体を覆い尽くしている、というのが特徴である。釜山サトゥリを聞きたければ、この映画を見ればよい。慶尚道サトゥリを聞き慣れているせいか、私はそれほど違和感を感じなかった。

この映画で好きなシーンは、釜山の乾魚物都売市場を、主人公の4人の高校生が駆け抜けるところ。どうも私は、映画の中でがむしゃらに走っているシーンを見るのが大好きなようだ。

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