リ・ポン君祭り
4月15日(水)
「粗忽者の先生」は、風邪をひかれたようである。
鼻水が止まらないようで、授業中も、ときおり教室の外へ出て鼻をかんでおられる。
たぶん、強い薬を飲んだと思われ、テンションも少しおかしい。
2時間目の授業が始まって少したってから、「孫悟空」ことチャン・イチャウ君が遅れて教室に入ってきた。
「チャン・イチャウ!休み時間どこに行ってたの?」と先生。
「すいません。銀行です」
「じゃあ歌を歌いなさい!」
「え?」
「ここで歌いなさい」
罰として歌を歌わせるようだ。教室が突如盛り上がり、みんなが拍手する。
すると先生が、
「リ・ポン!一緒に踊りなさい」
とおっしゃった。
一緒になって拍手していた愛嬌のある顔のリ・ポン君は、先生の突然のご指名に「え?」という表情をする。
すると今度は、みんながリ・ポン君に向けて拍手をしはじめた。
リ・ポン君にしてみれば、自分は授業に遅れてきてもいないのに、何で踊らなければいけないんだ、という心境だろう。だが、拍手は鳴りやまない。
隣にいた私も、思いっきり拍手をした。
こうなると、もう収まらない。チャン・イチャウ君の罰ゲームの歌なんぞ、どこかに行ってしまい、リ・ポン君だけがみんなの前で踊ることになった。
実は以前にも一度、彼は授業中に踊ったことがある。その踊りの腰使いが妙にキモチワルくて、先生をはじめみんなに大受けだった。先生も、そのことを覚えていたのだろう。
例によって、こっけいな踊りを少しキモチワルイ腰使いで踊る。
授業を進めることを第一に考えている「粗忽者の先生」が、こんなことをさせる、というのもめずらしい。何か強い薬を飲んだのではないか、と私が考えたのもそういう理由からである。
リ・ポン君は、自分に満足のいく踊りが踊れなかったようで、少し悔しげである。先生も、「練習して、また踊りなさいよ~」と、彼におっしゃる。
後半の、大柄の先生の授業。
例によって、集中力を欠いた中国人留学生たちは、後半の3、4時間目になるとうるさくなる。
「何でこんなにうるさいの?先生は2級の他の班の様子を全部知ってるけれど、こんなにうるさいのはこの班だけよ!」と先生。
「先生のおっしゃってることは、本当なの?」私は、右隣に座っていた白縁眼鏡の青年、ル・タオ君に聞いてみた。ル・タオ君は、隣の班にヨジャ・チング(ガールフレンド)がいるので、他の班のこともよく知っているだろうと思ったからである。
「本当ですよ。他の班はこんなにうるさくありません。うちの班は、先生も学生も面白くて雰囲気がいいので、こんなにうるさいんです」
なるほど。そう言われれば、たしかに面白い人が揃っている。
今日の会話表現の練習は、友達を「公演」に誘う、というテーマである。
伝統芸能、コンサート、演劇、展示会などの中から、好きなものを選んで、2人で会話練習をする。今日の私のパートナーはリ・ポン君である。
リ・ポン君は、「プチェチュム」という舞踊の公演を選んだ。リ・ポン君が私を「プチェチュム」の公演に誘う、という会話を、みんなの前ですることになった。
「プチェチュム」とは、「扇の舞」という意味で、扇子を使って踊る踊りのことである。だが、私はこの舞踊がよくわからない。
「中国にもありますよ」とリ・ポン君。
すると大柄の先生が、「じゃあリ・ポン!ちょっと踊ってみてください」とおっしゃる。
みんなはまた拍手。
何でまた俺が?という顔をしながら、例によって奇妙な腰使いの踊りをはじめた。
なんだ、全部同じ踊りじゃないか。
再び満足のいく踊りが踊れなかったようで、悔しげな顔。
「練習して、また踊りなさい」と先生。
ひととおり踊り終わって、席に戻ったリ・ポン君が私に真顔で言った。
「この踊り、いきなり踊ると腰が痛くなるんですよ。本来ならば、踊る前に準備運動をしなければならないんです」
まあそれほどまでの踊りでもないと思うんだが、「大変だねえ」と話を合わせる。
今日はまさに「リ・ポン君祭り」だった。
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