缶コーヒーの連鎖
孤高の美青年、ヤン・シニャン君は、昨日に引き続き、今日も欠席である。
色白で美形の顔だちと、もの静かな立ち居振る舞いに加え、いつ欠席するかもわからない危うさ…古めかしい言葉でいえば、母性本能をくすぐるタイプ、というのであろうか。語学の女性の先生方の間でも、彼の人気は高いようである。
彼は遅刻すると、必ず、缶コーヒー(あるいは、喫茶店でテイクアウトしたコーヒー)を先生に持ってくる。お詫びのつもりなのだろう。
むろん、先生は「コーヒーなんか買わなくていいんですからね」とおっしゃるが、つい頬が緩んでしまうのは、人情というものであろう。
(コーヒーを買いに行く暇があったら、授業にもっと早く来いよ)と私などは思ってしまうが、女性にモテる、モテないの差は、こういうところにあらわれるのかも知れない。
だがよくよく観察すると、こうしたことをしているのは、なにもヤン・シニャン君に限ったことではないようである。
1時間目と2時間目のあいだの休み時間の時である。雨上がり決死隊の蛍原氏に髪型までそっくりのホ・ジュエイ君が、宿題のノートをパンジャンニム(班長殿)の机に置いたのだが、その際に、缶コーヒーも一緒に机の上に置いた。
宿題のノートは、パンジャンニムがみんなから集めて、授業が始まる1時少し前に先生のところに持って行く。ところが、ホ・ジュエイ君は、提出するのが遅れてしまったようなのである。
そこで彼は、宿題のノートと一緒に、買ってきた缶コーヒーをパンジャンニムの机の上に置いたのである。「遅れてしまったけど、ちゃんと提出してください、班長さん」という意味がこめられた缶コーヒーなのだろう。
ところが当のパンジャンニムは、どこへ行ったのか、2時間目が始まっても教室に戻ってこない。すると5分くらい遅れて、教室に入ってきた。
「どこへ行ってたの?」と先生。「遅れてすいません」と言いながら、パンジャンニムは自分の机に目をやる。すると、缶コーヒーが置いてあるではないか。
パンジャンニムは、すかさずその缶コーヒーを手に取り、「ソンセンニム(先生)!これを飲んでください!」と先生に渡した。「遅刻を、これで許してください」という意味がこめられた缶コーヒーである。
「だからそんなことしなくていいって言ってるのに!」と先生はおっしゃるが、パンジャンニムの押しに負けて、渋々と受け取る。
かくして、「お詫びの缶コーヒー」は、語学堂の教室をまわりつづける。
語学堂の建物の2階にある自動販売機。いつもあっという間に缶コーヒーがなくなるが、ここかしこで、中国人留学生たちによる「お詫びの缶コーヒー」や「お願いの缶コーヒー」が、「実弾」として飛び交っているからではないだろうか。
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