« 映画に救われる | トップページ | だめにんげんだもの »

パンハクは始まったけれど

5月11日(月)

先週の金曜日、いま通っている大学の、ある先生から電話が入る。

その先生の授業に出ている学生が、こんど授業で、「日本人は、なぜ小さいものに価値を認めるのか」というテーマで発表をするのだが、その発表内容について、学生に会ってアドバイスして欲しい、とのこと。

よく聞いてみると、パソコンとか、デジタルカメラとか、携帯電話とか、日本人はそういったものをできるだけ軽くて小さく作ることを好むが、それはなぜなのか、ということらしい。それを日本人の立場から、意見を聞きたいとのこと。

なんとも難しいテーマである。そんなこと考えたこともなかったし、私が日本人の代表みたいに意見を言うのもおこがましい。

だいいち韓国語も満足にできない私ごときが役に立つのか?と疑問に思ったが、以前、その先生に御馳走になった経緯もあり、断ることはできない。

「ちょっと今日は無理なので、来週なら大丈夫なんですが」と、翌日の期末試験を控えた私。

「その学生の発表は、来週の火曜日なので、じゃあ月曜日にお願いしたいんですが」

「月曜日は夕方にソウルに行く用事があるので、その前であれば大丈夫です」

「わかりました。では学生に連絡をとって、学生の方から連絡をとらせます」

そして週明けの月曜日。

いろいろ連絡の行き違いがあり、午後1時過ぎにその学生とお会いする。聞くと、大学2年生だという。

高校時代に日本語を勉強していたということで、ほんの少しだけ、日本語が話せるという。

私も、韓国語が満足に話せない。

どうやってコミュニケーションをとったらいいものか。

「英語はできますか?」と学生。

「いや、あまりできません」

結局、たどたどしい韓国語でお話しすることに。

「日本人はなぜ小さいものを好むのか」「電気製品に限らず、俳句などの芸術においても、最小限の表現を好むのはなぜか」等々、日本語で答えるのも難しいような質問が続く。

こちらの勝手な持論を話しているうちに、あっというまにタイムリミットの2時を過ぎる。

あまりにたどたどしい説明だったので、役に立ったとも思えなかったのだが、「これからも機会があったらいろいろお話を聞いてもいいでしょうか」と、気を遣って言っていただく。「こちらも勉強になりますので、いつでもどうぞ」とお答えする。

学生とお別れした後、KTXでソウルに向かう。

日本からサバティカル(研究のための長期休暇)でソウルに滞在されている先生の紹介で、ソウル大学の先生と会食をすることになったのである。

場所を聞くと、朝鮮ホテルという高級ホテルだというので、久しぶりに背広を着る。

午後6時、朝鮮ホテルに到着。ホテルの中にある中華料理で、コース料理をいただきながら、お話をする。

といっても、もっぱら、サバティカルの先生とソウル大の先生のお二人がお話をされて、私は大御所お二人のお話をひたすら聞くだけ。たまに二言、三言お話しする程度である。

お二人は旧知の仲で、久々にじっくりとお話する機会だったようで、話がはずむ。気がつくと、10時を過ぎていた。

ソウル大の先生とお別れした後、(さて、どうしようか。KTXの最終も出てしまったし…)と考えていると、サバティカルの先生が、

「大邱へ帰れますか」

とお聞きになったので、

「いえ、適当に泊まるところを探しますので」

と答えると、

「今から友人が飲んでいるところに合流しますので、一緒に行きましょう」

とおっしゃる。

言われるがままに仁寺洞へ移動。日本でいう居酒屋のようなところに入ると、お二人の先生が飲んでおられた。

お一人は、以前、学会発表をしたときにコメントをいただいた先生。もうお一人は、韓国の大学で教えておられる日本人の先生。これまた、どちらも大御所である。

以前、学会発表でコメントいただいた先生は、学生に厳しいという評判をうかがったことがあるが、お酒の席では実に楽しい。居酒屋のアジュンマも交えて、楽しいやりとりが続く。

気がつくと12時をまわっていた。学会発表でコメントいただいた先生に、「うちに泊まっていきなさい」といわれる。「モーテルでもなんでも探しますので」と言ってはみたものの、断れる状況ではなくなった。

むかしから、他人の家に泊まるのが苦手だし、他人を自分の家に泊めるのも苦手である。内弁慶である私は、どうも、他人の家で必要以上に緊張してしまうのである。ましてや、大御所の先生のお宅だからなおさらである。

それに、得体の知れない外国人が、夜中に急に家にやってきて、泊めてください、といったら、家の人はどう思うだろう、と考えると、やはり気がひけるのである。

だが、言われるがままにタクシーに乗り、先生のお宅にうかがう。

「申し訳ないけど、明日は朝8時から大学で講義があるので、朝6時半には家を出るんだけど、それでもいいですか?」と先生。

「もちろん、かまいません」と私。

夜遅くにもかかわらず、奥様に迎えられ、少しだけ自家製のワインをいただく。

1時半ごろまで、先生や奥様とお話しした。

そして翌朝(12日)、6時過ぎに起床。すでに先生は身支度をととのえておられた。

慌ててこちらも帰り支度をして、朝食をいただく。

そして、先生と一緒にお宅を出て、奥様の運転される車でソウル駅へと向かう。

「どうでしたか?面白かったでしょう」

「ええ、とても楽しい経験でした」

たった数時間の滞在だったが、実際、ホームステイ、というのは、こんな感じなんだろうか、と思った。たしかに、ホームステイをすれば、語学があっという間に身につくかも知れないし、外国の文化に直接触れるいい機会なのだろうと思う。

先生ご夫妻に感謝して、ソウル駅でお別れした。

パンハク(休暇)初日の、長い1日が終わった。

|

« 映画に救われる | トップページ | だめにんげんだもの »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 映画に救われる | トップページ | だめにんげんだもの »