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交流

5月1日(金)

博物館の守衛のアジョッシ(おじさん)との不思議な交流が始まったことは、前に書いた

授業が終わってから、博物館の研究室に行って、夜9時頃まで勉強をする。帰るとき、博物館の玄関を開けてもらうために、守衛室にいるアジョッシに声をかける。

サトゥリ(訛り)が強いのか、アジョッシの個性なのか、相変わらず何を喋っているのかわからない。どうも「今日もよく勉強したね」と、言っているように聞こえる。

毎日挨拶をくり返すうちに、夜9時を基準に、それより早い時間に帰る時には「今日は早く帰るんだね」、それより遅い時間に帰るときには「今日はずいぶん熱心に勉強したね」と、話しかけてくれるようだ、ということがわかってきた。

以前に一度、「日曜日に研究室に行くかも知れないので、その時は開けてくれますか?」と頼んだことがある。結局、その週の日曜日には、面倒くさくなって行かなかったのであるが、翌日の月曜日に、「昨日は待っていたのに、来なかったね」と言われた。

そして数日前のことである。

いつものように、帰ろうとして守衛室に声をかけると、

「この前の木曜日どうしたの?ずっと待っていたんだが、全然帰る気配がなかったので心配したよ」

といったようなことを話しかけられる。

木曜日…?と考えて、はたと気がついた。そういえば、先々週の木曜日の夕方から研究会に参加するようになったので、夕方6時前には研究室を出てしまうのだった。だから、アジョッシに声をかけることなく、博物館を出てしまったのである。そのことを知らなかったアジョッシは、ずっと待っていた、というのだ。

私は、事情を説明した。

「なんだ。そういうことか…」

「ええ、だから、毎週木曜日は、博物館を早く出るんです」

そして昨日。やはり研究会に参加するために、夕方6時少し前に博物館を出ようとすると、玄関にアジョッシがいた。まるで私が出るのを待っているかのようである。

「研究会だね」

「ええ」

アジョッシは、1日1回、私と話をしないと気が済まないのだろうか。ほとんど言葉は通じていないと思うのだが。

交流、といえば、近所のコーヒーショップのマスターにも、顔を覚えられるようになった。

そのコーヒーショップは、大学から私の部屋に帰る途中にある(韓国では、喫茶店のことをコーヒーショップという)。例によって喫茶店で勉強がはかどるタイプの私は、家に帰る前に、そのコーヒーショップに寄って、少し勉強してから帰ることが何度かあった。

ある日の昼間、コーヒーショップの前を歩いていると、マスターに道ばたで挨拶された。顔を覚えられたのか、と思うと、なんだか通わなければいけなくなるような気がしてくる。

そしてその日の夜、そのコーヒーショップに行くと、マスターが、「日本人の方ですね」と話しかけてきた。

「ええ」

「○○を勉強しているんですか」

どうも、私が喫茶店で読んでいた本を見ていたようだ。

「そうです。語学も一緒に勉強しているんです」

「そうですか。頑張ってください」

それからというもの、すっかり顔なじみになってしまった。

やはり昨日、研究会の帰りにコーヒーショップに寄ると、レジでマスターが、

「週末はどうしているんですか?」

と聞いてくる。平日にしか来ないことを、訝しがっているのであろうか。

「先週末は、ソウルにいました」と答えた。

守衛のアジョッシも、コーヒーショップもマスターも、やたら私の予定を気にしているようである。ほっといてくれよ、と思うのだが。

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