パソコンデスクと格闘
5月18日(月)
家でまったく原稿が書けない。
理由は、家に机がないからである。
もちろん、ちゃぶ台のようなものはあるのだが、そこにパソコンを置いて原稿を書こうとすると、姿勢が悪くなったり血行が悪くなったり腰が痛くなったり足が痺れたりと、集中力が続かず、つい寝そべってしまう。
机を買うことは悲願だったが、いまひとつ決断ができないでいた。
しかしそんなことは言ってられない。とりあえず、原稿を書くためには机が必要だ。
というわけで、研究室をいつもより早く出て、近くのホームセンターに行くことにした。
しかしホームセンターには机が売っていない。そのかわりに、組み立て式のパソコンデスクが売っている。
考えてみれば、椅子に座ってパソコンに向かって原稿が書ければいいのだから、机にこだわる必要はない。パソコンデスクで十分である。値段も安いし、ちょうどよいだろう。
パソコンデスクと、小さなパイプ椅子を買い、家に戻ってさっそく組み立てることにする。
しかし、ここに大きな落とし穴があった。
私は、稀にみる不器用なのである。なにしろ、中学1年の1学期に、「技術」という科目で5段階評価の「1」をとった人間である。板を組み合わせてお盆を作っただけなのに、どこをどうすれば、「1」をとれるのか、まわりの友達は不思議がっていた。
私の父方の祖父は大工だったが、どうやらその遺伝子は受け継がれなかったようである。
加えて、私には「安物買い」という癖がある。値段の高い家具とか、品質のいい家具とかを、欲しいと思ったことがない。私の知り合いが中国に留学したとき、向こうでアンティークの家具を買ったばかりに、日本に持って帰るのが大変だった、という話を聞いたことがあるが、アンティークの家具に思い入れのない私は、「やっぱり、すごい研究者はそういうところにもこだわりを持っているのか。こだわりのない私はやっぱり小粒だな」と感じたものである。
この「安物買い」の癖は、まぎれもなく父親譲りである。
さて、ホームセンターで買ったパソコンデスクは、当然手ごろな価格である。その分、自分で組み立てる手間が大変である。
箱を開けて、組み立て図を見ながら作業にとりかかる。
脚となるパイプ2本と、机の板を組み合わせればよいのだが、これがかなりむずかしい。まず、2本のパイプを平行の状態にして、そこに、いくつもの板をはめ込んでいくのだが、板がめちゃくちゃ重いのと、くっつけるためのねじが、水平方向と垂直方向の2つを組み合わせて締めなければならないのである。
なかなか言葉では説明しづらいが、2本のパイプの平衡を保ちつつ、重い板をもちながら、2つの異なった方向からネジを締めていく。これを、4枚の板についてやらないといけないので、16カ所、32本のネジを使用することになる。
こんなもん、1人でできるか!
と、ふだんの私なら投げ出すところだが、せっかく大変な思いをして持って帰ってきたのだし、なにしろ原稿を書くためには、一刻も早く組み立てる必要があるのである。すでに夜9時を過ぎ、すっかり涼しくなっているにもかかわらず、大汗をかきながら、パソコンデスクと格闘する。
すると、ピンポーン、と玄関の呼び出し音が鳴った。
今ごろ誰だろう。こんなとりこんでいる時に。
無視しようとも思ったが、何度も勢いよく鳴らすので、仕方なく玄関を開ける。
「ガスの点検でーす」
作業服を着たアジュモニ(おばさん)が、ガスの点検の機械を持って立っていた。
仕方なく部屋に入れるが、まだパソコンデスクを作っている途中である。パソコンデスクが入っていた段ボールも広げたままで、部屋がかなり散らかっている。
それでなくとも、散らかっている部屋が、さらに凄いことになっているのである。
「あら、引っ越したばかりですか?」とアジュモニ。
「いえ、5カ月前からいます」
アジュモニは少し引き気味である。
キッチンのガス点検が終わり、こんどは部屋の奥にあるボイラー点検。
ダンボールと作りかけのパソコンデスクをまたぎながら部屋の奥に移動する。
「あのう…。これは何カ月ごとの点検ですか?」
「6カ月ごとです」
それが、よりによってなんで今日のこの時間なんだ?
点検が終わり、アジュモニはあきれた様子で帰っていった。
とんだ邪魔が入ったものだ、と思いつつ、作業を再開する。
指がちぎれるんじゃないか、というくらいネジを締め、泣きそうになりながらも、なんとか完成する。
1カ所だけ、ネジがバカになったところがあった。
いつもそうだ。この手の作業をすると、必ず、1カ所はネジがバカになる。ネジがバカにならないで完成したためしがない。
ともあれ、これでようやく家でも原稿が書ける!
その前に、「いったん」このパソコンデスクとの格闘の顛末を書きとめておこう。
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