ニュース特報と深夜映画
5月23日(土)
朝起きて、テレビをつけたら、大変なことになっていた。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領が逝去した、というニュースである。自殺ではないか、と伝えている。主要な放送局は、特別報道番組に切り替えて放送している。
次第に状況が明らかになる。11時に病院の記者会見があり、死に至る経過と、死因が明らかにされる。やがて、自宅のパソコンの中に短い遺書が残っていたことが報道され、まもなく、遺書の内容が公開された。そして、自殺の直前、一緒にいた警護員と交わした会話も明らかにされた。
何時何分に遺書を書いて、何時何分に自宅を出発して、何時何分に山に登り、何時何分に身投げしたか、などが、詳しく復元されてゆく。
かつての最高権力者の自殺にも驚くが、その最後の瞬間までが、克明に復元されていく過程を、報道を通じて、目の当たりにする。大変なときに、韓国に居合わせたものだ。
ニュース特報は、ときおり通常番組をはさみながらも、夜まで続き、夜11時過ぎには、前大統領の足跡をたどるドキュメンタリー番組が放送される。
夜12時過ぎにドキュメンタリー番組が終わると、映画が始まった。冒頭に、南北首脳が握手しているニュース映像が流れる。当時の金大中大統領と金正日総書記である。
今日のニュースに関係するような、現代史に関わる映画だろうか、と思って見始める。
キム・スンウや、ファン・ジョンミンが、軍人役で登場する。キム・スンウは、ドラマ「ホテリアー」で主役のホテルマンを演じていたのでよく知っていたし、ファン・ジョンミンは、以前に見た映画「影の殺人」の主役である。本当に、山本太郎に似ている。どちらも好きな俳優なので、期待も高まる。
キム・スンウとファン・ジョンミンは敵同士のようで、お互い撃ち合いをはじめる。
すると、キム・スンウとファン・ジョンミンを含む数人の軍人たちが、いきなり400年以上前の朝鮮時代にタイムスリップする。そこで彼らは、のちに韓国の英雄と称えられる李舜臣と出会い、彼とともに蛮族と戦うことになる。
ん?どこかで見た設定だな。
むかし見た映画「戦国自衛隊」ではないか!
そこでさっそく調べてみると、この映画は2005年に韓国で公開された「天軍」という映画であることがわかった。(以下、完全なネタバレです)
冒頭のシーンは、南北会談の実現以降、南北が共同して秘密裏に核兵器を開発するが、米国や日本の非難を受けて、米国に譲渡することになったものの、北の将校(キム・スンウ)が核弾頭を盗み出して逃走し、それを、韓国軍の将校(ファン・ジョンミン)が追って、両者が衝突する、というものだった。なんともすごいストーリーである。
さらに驚きなのは、そこで400年以上前にタイムスリップした彼らは、若き李舜臣と会い、村を脅かす蛮族(女真族)を撃退する手助けをするのである。村人に、蛮族の撃退を頼まれた彼らは、村人たちに戦術を教え、武器を作らせ、馬に乗って襲ってくる蛮族を、見事撃退する。
ん?これも見たことがあるような。
黒澤明監督の「七人の侍」ではないか!
面白いのは、若き李舜臣が、実はどうしようもないヘタレだった、という設定で、それを、タイムスリップした彼らが助け、英雄に仕立ててゆく、という展開になる。
とにかく荒唐無稽な話のオンパレードである。若き李舜臣を、パク・チュンフンが演じていて、つまり、いま韓国映画で、間違いなく主役をはることのできる3人が、夢の共演をしているのである。3人もの主役級の人を使いながら、これだけの荒唐無稽な話を作りあげるのだから、なんとも贅沢なB級映画である。
基本的に、千葉真一や夏八木勲といった大俳優が、「戦国自衛隊」のような荒唐無稽な映画に大まじめに取り組んでいるのが大好きな私にとっては、この映画も、十分に楽しめた。
しかし、こんな大変な日に、なぜこんな荒唐無稽な映画を放送するのだろう。
映画の最後の方には、北の軍人と韓国の軍人の間に不思議な友情が芽生え、そして、両者が力を合わせて蛮族を撃退する、というシーンがある。2005年当時の南北関係融和を背景にした描写であろうか。そこには、生半可な私にはおよそはかりしれない、韓国の人々の複雑な感情が見え隠れしているような気もしてくる。
だから、私としては、余計な詮索などせずに、あくまで荒唐無稽な娯楽映画として楽しめばよいのだろう。
この映画が公開された2005年は、盧武鉉大統領の在任の時期でもあった。そうしたことも含めて、韓国の人々は、この映画を見て、何かを感じとるのかも知れない。
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