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なりゆきバスの旅

5月22日(金)

扶余2日目。

午前中、展示を担当された研究官の方の解説で、日本から来た大御所の先生ほか数人と、博物館の特別展をじっくりと見学する。大御所の先生の貪欲な知識欲を、目の当たりにする。

お昼はハンウ(韓牛)の焼肉と冷麺をおいしくいただく。食後、みなさんとお別れして、バスターミナルに向かう。以前から一度訪れたいと思っていた公州に行くためである。

公州は、百済が扶余に都を置く前に、都が置かれていたところである。有名な王の墓もあり、国立の博物館もある。扶余から、バスで1時間ほどのところである。扶余から、KTXの駅のある大田(デジョン)に行く途中にあたる場所でもあるので、公州を見学したあと、大田から大邱に帰ることができる、というわけである。

「博物館は、ちょっと不便なところにあるので、公州のバスターミナルからタクシーで行った方がいいですよ」と、研究官の方が教えてくれる。

「帰りはどうすればいいでしょう」

「帰りもタクシーですね。ただ、タクシーをつかまえられるところでもないので、行きのタクシーの電話番号を聞いておいて、帰るときに電話をかけて、来てもらえばいいでしょう」

さて、扶余のバスターミナルで公州行きの切符を買って、バスに乗り込む。

しかし不安である。

公州行き、とはいっても、直行、というわけではなく、途中何カ所か停車するのである。しかも終点が公州ではなく、別の場所であり、公州は経由地である。しかもまったく土地勘がないときている。

だから、間違えることなく公州で降りなければならない。

前日、扶余に行くときもそうだった。

大田からバスに乗るが、途中何カ所かとまるのである。「あれ?扶余か?」と思って、荷物を持って運転手席まで行って、

「扶余ですか?」

と運転手に聞くと、

「ノンサン(論山)。扶余は次」

と言われ、再び荷物を持って自分の席に戻る。

車内放送も特にないので、本当に、自分の目的の停留所に連れていってくれるのか不安である。それでなくても、以前苦い経験があるし

公州行きのバスでも、同じことをくり返す。

しかも昨日から今日にかけて、本をもらったり買ったりしたので、荷物が1つ増えている。

公州市内に入って、バスが停留所にとまったので、あわてて、リュックを背負い、両手に荷物を持って、運転手のところまで行く。

「公州ですか?」

「次だよ、次」

再び、荷物を持って席に戻る。

1時間ほどして、公州のバスターミナルに到着。

教えられたとおり、そこからタクシーに乗る。

「博物館まで行ってください」と、韓国語で言うと、

「ハクブツカンね」

とタクシーのアジョッシ(おじさん)が日本語で返事をした。

私の発音を聞いて、すぐに日本人だとわかったようだ。

「韓国語上手だね。旅行に来たの?それとも韓国に住んでるの?」

とアジョッシが韓国語で聞いてきた。

「昨年12月から大邱に住んでいるんです」と答える。「おじさんも、日本語が上手ですね。どこで習ったんですか?」私も韓国語で返す。

「ひとりで勉強した。日本人のお客さんも多いしね」

へえ、こんな交通の不便なところにも日本人の観光客が来るのか。

「ところで、帰るとき、博物館からタクシーつかまえられますかね?どうしたらいいですか?」

「それなら電話くれよ」とアジョッシが、名刺をくれた。「ジェンワ、ジェンワ」と、また日本語の単語を使った。

「じゃああとで電話します」と、博物館の前で降りる。

3時過ぎに博物館に到着。見学のあと、有名な王の古墳がある古墳群を見に行こうとするが、どこにあるかわからない。博物館に荷物を置いて、歩いていくことにする。

「歩いて7分くらいですよ」と博物館の人にいわれたが、7分たってもそれらしい場所はみえてこない。

数日前から続いている左足の痛みも手伝って、だんだん不安になってくる。

Photo_2 もう引き返そうかな、と思った矢先、古墳群の看板を発見。無事見学できた。

結局、往復2キロの道を、左足の痛みに耐えながら歩いたことになる。

博物館に戻ったのが6時近く。荷物をひきとって、先ほどのタクシーの運転手に電話をかける。タクシーの運転手も覚えていてくれて、すぐに来てくれた。

「大田行きのバスが出ているバスターミナルまでお願いします」

「大邱に帰るんだよね」

「ええ」

「そこからKTX?」

「ええ」

「大田から大邱行きのバスも出ているよ」

「あ、そうですか。時間はどのくらいかかりますか?」

「2時間…、いや、1時間40分だな」

「KTXとどっちが安いでしょう」

「それはよくわからない。…もし大邱行きのバスに乗るんだったら、公州から東大田行きのバスに乗りなさい。東大田で降りたら、道路の向かい側に大邱行きのバスが出てるから」

公州のバスターミナルに到着。

アジョッシにお礼を言って、タクシーを降りる。

さて、どうしようか。

前日は、大田の西部バスターミナルから乗ったので、「東大田」は、未知なるターミナルである。しかも、私がアジョッシの言葉を聞き違えている可能性もある。

だがここは、アジョッシの言葉を信じて、6時19分発の東大田行きのバスに乗ることにする。

出発して1時間過ぎても到着する気配がない。日が落ちて次第に暗くなったころ、大田市内に入り、繁華街でバスが停車する。ほとんどの人が降りている。

私もあわてて荷物を抱えて、運転手のところに走る。「東大田ですかっ?」

「違うよ」

再び荷物を持って自分の席に戻る。

やがて、バスは繁華街を過ぎ、どんどん寂しいところに向かっていく。

(本当に東大田に着くのだろうか?いや、東大田に着いたところで、大邱行きのバスがあるのだろうか?)

すでにあたりは真っ暗である。不安ばかりが募る。

バスの窓から外を食い入るように見つめる。やがて町の灯りが見えてきた。

(まったく驚かせやがって…)

こっちが勝手に不安がっていただけなのだが。

7時45分頃、東大田のバスターミナルに到着。アジョッシにいわれたとおり、道路を渡ると、長距離高速バス乗り場があり、大邱行きのバスもあった。

ちょうど8時発のバスがあるという。急いで切符を買って、バスに乗り込む。当然ながら、KTXよりも料金は安かった。

出発してから1時間以上が過ぎ、バスは高速道路を降りる。バスの窓から大邱タワーが見えたときは、ホッとした。

そして、出発して1時間40分後の、9時40分頃、東大邱のバスターミナルに到着した。

すべて、タクシーのアジョッシの言ったとおりだった。大田からKTXに乗ったとしても西大田からタクシーで15分(500円)かかり、しかも大田から大邱まで1時間かかるので、時間的には変わらなかったかも知れない。

アジョッシありがとう。名刺をとっておいて、こんど公州に行くことがあったら、また乗せてもらおうか。

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