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タン・シャオエイ君の純情

5月6日(水)

キザなタン・シャオエイ君とまじめ美人のル・ルさんは、相変わらずアツアツである。

授業中に顔を見合わせて微笑んだり、先生に2人の間を冷やかされて、ル・ルさんが頬を赤らめたりと、正面に座っている私としては、正視にたえない状況が続いている。私はそのたびに、教科書を目の高さまで持ってくる。

まあ、そういうことにいちばん情熱的な年代だから仕方がないのかもしれない。そんな情熱的な時代をとっくに過ぎてしまった私からすれば、「お医者様でも草津の湯でも、惚れた病(やまい)は治りゃせぬ」(草津節)といったところか。

タン・シャオエイ君は、ちょっと苦手なタイプである。

キザで、かっこよくて、流行に敏感で、服装のセンスがよくて、という、私とは真逆の人間である。加えて、韓国に2年もいるので、韓国語も達者で(文法はまるでダメだが)、その実力でもって先生を困らせる。

きっとオッサンになったら、「ちょい悪オヤジ」になるタイプである(古いか?)。

同世代だったら、たぶん友達になれなかっただろうし、もし教員と学生、という関係だったら、扱いづらい、と思ったかも知れない。

この班にタブーはない。だから、つきあってる2人のことを先生も平気で話題にしたり、からかったりする。

「タン・シャオエイは、いつからル・ルさんのことを好きになったの?」と大柄の先生。

そこまで聞くか?どうでもいいじゃねえか、そんなこと、とこっちは思ってしまうだが。

タン・シャオエイ君が答えを濁していると、

「先生は知ってるわよ」と自信ありげに大柄の先生がおっしゃる。

「タン・シャオエイ君の宿題のノートを最初から見ていたらね、例文に登場する人の名前が、全部ル・ルさんになっていたのよ。毎回毎回、ル・ルさんの名前を使っているから、オカシイと思ったのよ」

宿題で、韓国語の例文を作るとき、ふつう私たちは「アンリ」とか「チョルス」とか「ウィルソン」とか、架空の人名を主語にしたりしていた。そうするのがあたりまえと思ってきたのだ。

ところがタン・シャオエイ君は、架空の人名ではなく、ル・ルさんの名前をそこに登場させていた、というのである。しかも、2級の授業が始まった当初からそうだった、というから驚きである。

「ということは、2級4班に入った当初から、ル・ルさんが好きだった、てことね」と先生が推理する。

それを聞いたル・ルさんは、ビックリするくらい真っ赤な顔をして、隣に座っているタン・シャオエイ君の宿題のノートを確認しはじめた。

たしかに、例文の名前が、すべて「ル・ルさん」になっているようだった。

「ル・ルさん、知らなかったの?」と先生が驚く。

「ええ、いまはじめて知りました」

「それだけ、最初からル・ルさんのことを思っていた、ということなのよ」と先生がまた冷やかす。

ル・ルさんが、ウットリした目でタン・シャオエイ君の方を見つめた。

タン・シャオエイ君は、照れくさくそうに黙っている。

あーあ、これでまた恋の炎がこれまで以上に燃えちゃうんだな。

私が苦虫を噛みつぶしたような顔をしていると、横にいた白縁眼鏡の好青年、ル・タオ君が私の表情に気づき、大爆笑した。

ともあれ、宿題の例文に好きな女の子の名前を使うなんて、なんとなくプラトニックな感じがして、よいではないか。タン・シャオエイ君、意外と純情なんじゃないか?

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