名前が覚えられない!
6月3日(水)
語学の授業3日目。
私は名前を覚えるのが苦手である。
わが班のチングたちの名前も、なかなか覚えられない。私以外は全員中国人であるため、名前のパターン、といったものが、まったくわからないのである。
前半の文法の先生も、それで苦労されているようであるが、驚くべきことに、後半のマラギ(会話表現)の先生は、授業の最初の回から、全員の顔と名前を一致させていた。ほとんどすべてがはじめて会う学生のはずなのに、どうやって覚えたのだろう。
プロ意識、というほかない。
後半のマラギの授業。わが班の学生がみんな優秀なため、滞りなく進む。最後、10分間くらい時間が余った。
「みなさーん、わが班のチングの名前は覚えましたか?」と先生。
「まだでーす」
「わが班のチングなんですから、ちゃんと名前を覚えないといけませんよ。これから、名前を覚えるためのゲームをします」
「コの字形」に座っている学生たちの端から、名前を言ってゆく。ただし、2人目からは、その前の学生の名前を言った上で、自分の名前を言う、というゲームである。
最初の人は、自分の名前だけを言い、2人目の人は最初の人の名前と自分の名前を言い、3人目の人は自分の前の2人の名前を言った後で自分の名前を言い、4人目の人は自分の前の3人の名前を言った後で自分の名前を言う…、といった具合に、次々と名前を付け足していく。
こうなると不利なのは最後の人である。前の人の名前を全部言った上で、自分の名前を言わなければならない。
私はちょうど真ん中の席であった。
ゲームが始まる。
「私は、リュ・リンチンです」
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイです」
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンです」
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンの横の、クオ・リウリンです」
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンの横の、クオ・リウリンの横の、リン・チアンです」
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンの横の、クオ・リウリンの横の、リン・チアンの横の、クオ・チエンです」
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンの横の、クオ・リウリンの横の、リン・チアンの横の、クオ・チエンの横のシャオ・ミンです」
ここで私の番。
こんなもん、覚えられるか!と思いつつ、聞きながらカタカナで紙に書き取った名前をチラチラ見ながら言い始める。
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンの横の、クオ・リウリンの横の、リン・チアンの横の、クオ・チエンの横のシャオ・ミンの横の…」
ここで一瞬、次の名前が頭によぎる。
「寿限無、寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の水行末 雲来末 風来末食う寝る処に住む処 やぶら小路の藪柑子 パイポパイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」
言おうと思ったが、大人げないのでやめた。
自分のフルネームを言ったが、なぜか他の学生たちは大爆笑した。珍奇に聞こえたのだろう。
さらにゲームは続く。
「私は、…の横のチ・チャオです」
「私は、…の横のチ・チャオの横の、リュ・ジュインティンです」
「私は、…の横のチ・チャオの横の、リュ・ジュインティンの横のフン・ウィンチョです」
「私は、…の横のチ・チャオの横の、リュ・ジュインティンの横のフン・ウィンチョの横の、スン・リジェです」
「私は、…の横のチ・チャオの横の、リュ・ジュインティンの横のフン・ウィンチョの横の、スン・リジェの横の、ル・タオです」
「私は、…の横のチ・チャオの横の、リュ・ジュインティンの横のフン・ウィンチョの横の、スン・リジェの横の、ル・タオの横の、チョン・ヒャポです」
「私は、…の横のチ・チャオの横の、リュ・ジュインティンの横のフン・ウィンチョの横の、スン・リジェの横の、ル・タオの横の、チョン・ヒャポの横の、リ・プハイです」
最後のリ・プハイ君は、ヘロヘロになりながらすべての人の名前を言った。
もし私の名前が「寿限無…」だったら、リ・プハイ君は、次のように言わなければならなかったであろう。
「私は、リュ・リンチンの横の、ピ・チョンカイの横の、チャン・チンの横の、クオ・リウリンの横の、リン・チアンの横の、クオ・チエンの横のシャオ・ミンの横の、じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのやぶこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけの横の、チ・チャオの横の、リュ・ジュインティンの横のフン・ウィンチョの横の、スン・リジェの横の、ル・タオの横の、チョン・ヒャポの横の、リ・プハイです」
はたして、全員の名前を覚えられるだろうか。
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