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夕食放浪記

このところ忙しくて、自分たちで夕食を作る時間がとれない。だからいつも外食である。

といっても、毎日決まった食堂に通う、というわけではなく、できるだけいろいろな店に通うようにしている。

ところが日本人が珍しいからなのか、1度行っただけで、店の人に顔を覚えられてしまう。あと、やたらと話しかけられることも多い。

大学の近くにある某中華料理屋。店も清潔で、味も悪くないので、気に入っているのだが、そこのアジュンマ(おかみさん)が話し好きで、やたらと話しかけてくる。

注文をしてから、注文の品が出てくる間、ずっと話しかけてくるのである。

アジュンマじたいはいい人なのだが、私も妻も、どちらかといえば社交的ではない方の人なので、ときにそれが苦痛に感じることがある。

疲れているときなどは、酢豚を食べたくなっても、「またアジュンマと会話しなければいけないのか…」と思うと、つい足が遠のいてしまう。

「じゃあ今日は安東チムタク(辛い鶏料理)の店にしよう」と、昨晩は、1カ月ほど前に一度行ったことのある安東チムタクの店に行くことにした。

ずいぶん前に来たはずなのに、やはりその店のアジュンマが私たちの顔を覚えていた。

私たちがテーブルにつくと、そのアジュンマは、大きな扇風機をえっちらおっちらと持ってきて、テーブルの真横に置き、私たちに向かって、扇風機をまわしはじめた。

いや、正確に言えば「私たち」ではない。「私」に向かって、である。

「首振り」の設定にするわけでもなく、扇風機の風はほぼ正確に私の体を直撃していた。

今日はべつだん暑いわけでもないのに、なぜ扇風機を私の真横に置いたのだろう。風もおそらく「強」に設定してあり、むしろ寒いくらいである。

そこで、ハタと思い出す。

前回この店に来たときは暑い日だった。その時私は、大汗をかきながらこの辛い鶏料理を食べていたのだ!そしてアジュンマはこのことを、覚えていたのだろう。

だから今回、私だけに扇風機の風を直撃させたのである。

うーむ。私が大汗かきであることも、アジュンマが覚えていた、ということか。軽いショックを受ける。

かくして、行く店行く店で、店の人に顔と体質を覚えられてしまうのか。

さて、今日の夕食はどうしよう。

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