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ああ、料理教室!

7月15日(水)

今学期の野外授業の日である。

通常の野外授業とは違い、今回は新たな趣向で、市内の料理教室で韓国料理を学ぶ、という試み。この時期の天気を考慮しての企画である。

ただし、語学堂の学生全員が一緒に、というわけにはいかないので、先週の金曜日から1週間かけて、2クラスずつくらいが1グループになって参加する。

料理教室の様子がどのようなものであるか、というのは、以前に書いた。その後に参加したグループからも、軒並み「面白くなかった」という情報を聞く。これだけ「面白くない」といわれると、逆に興味がわくものだ。

午後12時半、大学からバスに乗って、市内にある料理教室に到着。

イメージした料理教室とはちょっと違う。かなり古めかしい建物である。建物の中から、「おばちゃん」が出てきて私たちを迎えた。

あの方が料理教室の先生だな。

かなり古めかしい建物の、せまい階段を上った4階に、昔の中学校の「家庭科室」みたいな部屋があった。どうやらここで料理を作るらしい。中では、すでにこの料理教室の助手さんらしい人が何人かで材料の準備をしていた。

用意されたエプロンをつけて、持ってきた手ぬぐいを頭に巻いて準備していると、先ほどの先生がやって来た。

料理の先生は、なぜか頭に何も巻いていない。

あれほど口を酸っぱくして言っていたのは、何だったんだろう。

「みなさん、前に集まってきなさい」

前の壁には黒板。そしてその前には大きな教卓が置いてある。そこにはすでに、料理の材料が並べられていた。私たちは、その教卓の前に集まった。

黒板と教卓の間は、人ひとりが入る幅しかなく、えらく近接している。料理の先生は、その間にスッと入って、料理の説明をはじめた。

まず、キムパプ(のり巻き)の作り方。

ところがこの先生、料理とあまり関係ない話が多い。

「まずお鍋でご飯を炊きます」といって、ご飯と水を入れた鍋を火にかける。やがて沸騰してくると、鍋の蓋を開けて、

「ご飯の水蒸気はね、お肌にいいのよ」

といって、顔を鍋に近づけて、水蒸気を浴びた。

思わず、隣にいたワン・ウィンチョ君と顔を見合わせた。

さらに説明は続く。お話をはじめて、興奮してくると、後ろにある黒板に、チョークを使って、ケーシー高峰ばりの殴り書きの字で、なにやら書き始める。そしてそのあと、目の前にある材料をいじりはじめた。

ふたたび、ワン・ウィンチョ君と顔を見合わせる。「これが例のやつか…」

先生のされるお話の内容とは、たとえば、次のようなものである。

「いいですかみなさん。ここにタクアンがありますね。このタクアンは、ふつうに切れば100ウォンの価値にしかなりませんけど、見栄えよく切れば、1000ウォンにも1万ウォンにもなるんですよ」

といって、かなり危なっかしい包丁さばきでタクアンをウサギの形に切りはじめる。みんなが固唾をのんで見守っている。

「ほら、どうですか。きれいでしょう。これなら、1万ウォンだといって出せますよ。人間だって同じよ。みんな同じ人間だけど、一生懸命勉強したり努力したりすれば、何倍もの価値を生み出すのよ」

はじめてだな。人生をタクアンにたとえて説明されたのは。

それにしても、料理法とはまったく関係のない話だ。

それに、当然のことながら、ウサギの形のタクアンは使わず、ふつうに細長く切ったタクアンの方をキンパプに使うのである。

いったい、ウサギ形のタクアンには何の意味があったんだろう?

「さあ、次は、ご飯に食酢と砂糖を混ぜます」

かなり適当な量のご飯に、かなり適当な量の食酢と砂糖を混ぜて、手で混ぜはじめた。

指についたご飯をなめて味を確認しては、ふたたびその手でご飯をかき回す。

私はまたまたワン・ウィンチョ君と顔を見合わせる。

かき回す力がだんだん強くなり、ご飯が周囲に飛び散る。

うーむ。はっきり言って、かなり雑である。

「さあ、今度はカンピョウを煮ますよ」

カンピョウを鍋に入れて、テーブルの上のお椀に入っている得体の知れない液体を鍋の中に入れた。

「あれ、何でしょうね」隣のワン・ウィンチョ君が私に聞いた。

「ただの水じゃない?」

「いや、色がついてますよ。カンジャン(醤油)じゃないですか?」

「でも、さっき先生が飲んでたよ」

さっき、話に夢中になった先生が、お椀に入っているその液体を飲んだのを、私は見逃さなかったのである。

まさか、醤油を飲んだってことか?

ワン・ウィンチョ君が、近くにいた語学堂のオ先生(今回の我々のグループの引率担当の先生)に質問すると、「あれはだし汁ですよ」と小声で解説された。

しかし料理の先生からは、そんな肝心な説明をまったく受けていない。

やがて、鍋に醤油と砂糖を加えて、火にかけた。かなりの強火である。

ふたたび、料理と関係ない話が、延々と続く。

相当な時間がたったが、鍋のカンピョウは、強い火にかけられたままである。

(このままじゃ、絶対に焦げるぞ。大丈夫か?)

と思うのだが、先生はまったく意に介さず、話を続ける。

「さあ、ではいよいよ海苔にご飯と具を乗せて、巻いていきますよ」

すると、あらかじめ助手の方が細長く切っておいたと思われる、キュウリやカンピョウやカニかまや卵焼きを、海苔の上に延ばしたご飯の上に乗せていく。

(なんだ。結局、あの鍋のカンピョウは使わないのかよ)

まだ、カンピョウは火にかけられたままである。あのカンピョウは、どうなってしまうのだろう。

そして、海苔を巻いて、それを太巻きのように切って、キンパプ(のり巻き)が完成。

ここまでが、約1時間。1時間かかって、ようやくのり巻きが1本完成したのである。

「さあ、食べてみたい人いますか?」

なかなか手をあげる人はいなかった。

次はプルコギである。プルコギも、例によって材料や調味料の説明がほとんどないまま、関係のない話をしながら、作っていく。かなり適当に調味料を入れ、たれやネギを混ぜながら、例によって、ものすごい勢いで、牛肉を手で揉みはじめた。

そして、それをおもむろにフライパンで焼いた。

(あれ?たしか牛肉は、たれに30分以上つけないと美味しくならないって、語学の時間に教わったんだけどな)

セオリーもへったくれもありゃしない。

1時間以上かけた先生の説明もようやく終わった。

「さあ、今度はみなさんで作ってみてください」

3人ずつ1組になって料理をはじめる。私のグループは、ワン・ウィンチョ君とチ・ヂャオ君。

材料はすべて助手の方たちが切ってくれていて、私たちは、ただそれを巻いてキンパプを作ったり、焼いてプルコギを作ったりすればよいだけになっていた。

(なあんだ。じゃあさっきの、タクアンを切ったり、ご飯を鍋で炊いたり、カンピョウを煮たり、といった説明は何だったんだ?)

あっという間にキンパプとプルコギができあがった。

うーむ。達成感が全然ない。

そして、あっという間に食べ終わった。

「さあ、みなさんいいですか?今度は、韓国の礼儀作法を学ぶので、部屋を移動しまーす」

ここからが第2部。同じ先生による「礼儀作法講座」がはじまるのだが…。

このあとの出来事も、推して知るべし、であろう。

結局、1時間かかって、教わったのは、お辞儀のやり方だけだった。

あとは、延々と先生のありがたいお話を聞いた。

不思議だ。いつもの野外授業より、時間ははるかに短かったのに、それに、涼しい部屋の中にいたはずなのに、4時過ぎに大学に戻ったときには、いつも以上にグッタリしていた。

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