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大統領は5度死ぬ

8月18日(火)

金大中・前大統領が死去した。享年85歳。

今年に入って、2人の大統領経験者が死去したことになる。

5月の盧武鉉・前大統領の場合は、自殺という衝撃的な結末だったこともあり、市民たちの反応は尋常ではなかった。

それに対して、金大中・前大統領の死去は、「ひとつの時代が終わった」という感がある。

韓国では、現職や前職の大統領が死去した場合、一般に「国葬」あるいは「国民葬」という形で葬儀が行われる。

「国葬」は、葬儀の費用を政府が全額負担するもので、いわば最も手厚い葬儀である。これまででは、現職のまま死去した朴正煕大統領が、唯一「国葬」が行われた人物である。

「国民葬」は、葬儀の費用の一部を政府が負担するもので、5月の盧武鉉・前大統領の葬儀は、「国民葬」の形式がとられた。

たしかに盧武鉉・前大統領の死去は、市民たちに大きな衝撃を与えたが、韓国の現代史を考える場合、金大中・前大統領の果たした役割は、とてつもなく大きい。「国葬」でなければおかしい、と、他人事ながら思う。

その人生からして、波瀾万丈である。

たまたま手に入れた新聞を見ると、金大中・前大統領は、5回ほど死にかけたことがある、と書いてあった。

1回目は、1950年の朝鮮戦争のときで、北朝鮮の人民軍に逮捕され、監獄に入れられた際、銃殺直前で奇跡的に脱出したという。

2回目は、1971年の大統領選挙直後のこと。この年の4月の大統領選挙で、金大中氏は惜しくも朴正煕氏に敗れたが、翌5月、高速道路を走行中の金大中氏を乗せた車に、14トントラックが突っ込み、3人が死亡。金大中氏も大怪我を負った。のちにこれは、権力側による暗殺工作であったことが判明するが、この時の怪我により、腰と股関節に障害を負うことになった。

3回目と4回目は、1973年、日本で起こったいわゆる金大中氏拉致事件のときである。

東京のホテル・グランドパレスの一室に拉致された金大中氏は、まず、ホテルの部屋の風呂場で殺されかける。

次いで、目隠しをしたまま神戸港から船に乗せられ、釜山に行く途中で、海に投げ落とされそうになった。

5回目は、1980年5月18日の、いわゆる光州事件の際に逮捕され、死刑宣告を受けたときである。この時、国内外の批判により、刑の執行は停止された。

権力による弾圧がくり返し行われ、長期間の投獄、軟禁生活を余儀なくされつつも、4度にわたって大統領選挙に挑戦し、最終的には不死鳥のように、最高権力の座につき、はては、ノーベル平和賞を受賞する。これ以上の波乱な人生があろうか。

「国葬」こそふさわしい、と考える所以である。

(と、ここまで書いてきて、葬儀が「国葬」で行われることが決まった、とニュースで知った)

合掌。

(なお、韓国では、日本のように、前大統領、元大統領といったような区別をせず、一律に「前大統領」と表記しているので、ここでもそれに倣った)。

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