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試験狂騒曲

8月4日(火)

今学期4回目のクイズ(小テスト)の日である。

大学入学が決まったり、もはや進級をあきらめた学生たちは、ここ最近、授業に出ていない。今日の出席者は8名。約半数が欠席している。

どこの国の学生も、試験の点数は気になるものである。だが、以前にも書いたように、こと中国人留学生たちとなると、点数に対する執着は、すさまじい。

1時間目の授業の最初の30分間にクイズが行われるのだが、そのクイズが終わり、答案が回収されるや否や、学生たちが先生のいる教卓の周りにわっと集まってくる。

「ソンセンニム(先生)!○番の答えは○○で合ってますか?」といった質問が、先生に矢継ぎ早に投げかけられる。

「席に戻りなさい!」と先生に言われて、席に戻ったあとも、学生どうしが、中国語で、

「あそこの問題はどうだった?答えは○○でいいんだよね」

という会話を続ける。

それにしても、みんな、よく設問の内容を正確に覚えているものだ。私などは、答案を提出したとたん、出された問題のことなど忘れてしまうのだが、彼らのそのへんの記憶力だけはすばらしい。

もう終わってしまった試験など、ふりかえっても仕方がない、と思うのだが、彼らは、いつまでもそれを引きずっている。

「もうクイズの話はそれまで!授業を始めますよ!」と、先生がしびれを切らして、彼らに注意する。

前半の文法の授業が終わり、休み時間になったとき、2級時代からのチングである白縁眼鏡の好青年、ル・タオ君が、思いつめた顔で私に言った。

「キョスニム、もう僕たち、4級で会うことはできません!」

「どうしたの?」

「クイズでたくさん間違えたんです。たぶん僕は、4級に上がれないでしょう」

「大丈夫だよ。心配することないよ」

「何が大丈夫なものですか!」

暗い表情で、教室を飛び出した。

そして、休み時間が終わるころに教室に戻ったル・タオ君は、相変わらず、思いつめた表情である。

ル・タオ君は、隣に座っていたクォ・リウリンさんの席の前まで行くと、机に置いてあったボールペンを両手で持ち、とがったペン先の方を自分の左胸にあて、何度も突き刺すような仕草をしながら、クォ・リウリンさんに中国語で喋っている。

どうやら、「俺の心臓をこのボールペンで突き刺して、俺をひと思いに殺してくれ!」と言っているようである。

クォ・リウリンさんに、「なに馬鹿なこと言ってるの」みたいなことを言われ、あっさりと断られたル・タオ君は、今度は私のところに来て、同じくボールペンで左胸を突き刺す仕草をしながら、「僕をこれでひと思いに殺してください!」と、今度は韓国語で懇願してきた。

冗談じゃない。そんなことできるわけないだろ!と言うと、今度は、リュ・リンチンさんのところに行って、同じ仕草をしながら「俺をこのボールペンでひと思いに殺してくれ!」と懇願する。当然、断られる。

「誰か、俺を殺してくれー!!」と叫ぶル・タオ君であった。

そこへ、後半のマラギの先生が教室に入ってくる。

「みなさーん。今日のクイズはどうでしたかー?」

「難しかったでーす」とみんなが答える。

ル・タオ君は、思いつめた表情で、先生に質問する。

「ソンセンニム!今回のクイズの問題を作った先生は誰ですか?」

「誰だったかしら…。私ではないわよ。たしか、問題用紙の上のところに、出題者の先生の名前が書いてあったと思うけど。それがどうかしたの?」

「その先生を見つけて、殺したいです!」

おいおい、殺してくれだの、殺したいだの、穏やかではないな。いつものル・タオ君らしくない。

先生があきれながら答える。

「そんなに考えこむことないわよ。ふだんの成績がいいんだから。クイズが1回くらいダメだったからって、進級できないなんてことないでしょう」

実際、先生のおっしゃるとおりである。冷静に考えれば、ふだんまじめに授業に出ていて、毎回の試験もちゃんと受けているル・タオ君であれば、4級に進めないはずはないのである。だが、本人にしてみれば、今回のクイズが、致命的な失敗だ、と思ってしまったらしい。

私にも同じ経験があるので、その気持ちはよくわかる。やはり試験が思うようにいかないと、人間、軽く死にたくなるものなのだな。

だが、落ち込んでばかりはいられない。後半の授業では、本日2回目の試験、スギ(作文)の試験が待っている。

後半の授業2時間のうち、最初の1時間で、作文の構成を考え、次の1時間で、その構成をもとに作文を仕上げる、という方式は、前と同じである

今回のスギのテーマは、「韓国と他の国との比較」である。

先週、「自分が紹介したい国について、世界のどの国でもいいですから、調べてきてくださーい」という宿題が出た。

みんなが、中国だの、日本だの、フランスだの、といった有名でわかりやすい国をとりあげるなか、私は、中米のコスタリカを取り上げることにした。

なぜ、私がコスタリカを取り上げようと思ったのか?わかる人にはわかると思うが、私が1度行ってみたいと思う国の1つだからである。

調べたデータを、簡単な表にまとめて先生に提出したのだが、今回のスギは、その時に調べた国と、韓国とを比較して、共通点と相違点をそれぞれ2つ以上ずつあげながら、説明しなさい、というもの。

韓国とコスタリカを比較して、共通点と相違点を探し出す、というのは、かなり無理がある。相違点はまだしも、共通点なんてあるのだろうか。第一、私はコスタリカに行ったことがないのだ。

仕方がないので、共通点として、「海に囲まれている」「景色が美しい」「人びとが親切だ」といった漠然とした内容を書き連ねることにする。一方、相違点については、問題なくあげることができた。

かくして、本日の2つの試験は終了。ル・タオ君も、クイズの失敗を、スギで取り返したことだろう。

あとは、土曜日の期末試験を残すのみである。

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