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結婚の条件

8月3日(月)

ダメだ。「ミニホムピィ」に、すっかりハマっている。

最初は、日記だけのつもりが、表紙を考えてみたり、写真帳を作ってみたりと、やってみるとこれが結構面白い。

語学堂での写真を中心に、いままで撮ったものを少しずつアップしていくことにした。

今日の午前中は、すっかりその作業に費やしてしまった。

ま、せっかく作っても、誰に宣伝するわけでもないので、おそらく見る人は誰もいないのが悲しいところだが。

本当は、こんなことをやっている場合ではないのだ。

今週は、試験ラッシュである。今日がマラギ(会話表現)の試験。明日(火曜日)がクイズとスギ(作文)の試験。そして今週の土曜日が期末試験である。

案の定、今日のパダスギ(書き取り試験)は、10点満点で8点。先週金曜日の6点からくらべれば、やや復調したが、それでも、ミニホムピィにうつつを抜かしていたのが痛かった。

そして、今日の後半の授業では、マラギの試験が行われた。

過去3回の試験は、2人がペアになって、決められたテーマにしたがって会話する、という形式だったが、今回は、1人が、決められたテーマにしたがって発表する、という形式である。

過去3回の、会話形式の試験が、あまりにお粗末で、これでは成績評価がとてもできない、ということになったのだろう。方針変更したものと思われる。

テーマはあらかじめ伝えられていた。「結婚したいと思う相手の条件について、3分以内で述べなさい。条件を3つ挙げて、それぞれの理由についても述べること」

またその手の話かよ!

しかも既婚者の身にとっては、今さら結婚の条件もへったくれもありゃしない。

だが、そんなことを言ってもはじまらないので、昨日、完全原稿を作って覚えることにした。

私があげた結婚相手の3つの条件とは、次のようなものである。

1.いつでも他人に対する配慮がある人。

2.健康な人。

3.食べ物の好き嫌いがない人。

そのそれぞれについて、理由を考えなければならない。とくに1番については、なかなか説明が難しい。そこで、次のような話をでっちあげることにした。

「以前、ある夏の暑い日、友人たちと食事をした。テーブルの横には扇風機が置いてあった。食事をしていると、友人の1人が突然立ち上がって、扇風機を首振りさせずに、自分の方に固定してまわしはじめた。他の人のことを考えずに、自分のところにだけ風が来るように扇風機をまわしたその人は、他人に対する配慮がない人ということができる。私はそういう人と結婚したいとは思わない」

全くのウソエピソードなのだが、わりとわかりやすいたとえなのではないか、と、思い、原稿に書きとめた。

あとの2つの条件についても、適当な理由をでっちあげる。

さて、試験当日の今日。

ほかの学生たちも、いささか緊張気味である。休み時間に、まるでセリフを覚えるかのように、自分で作った原稿を声に出して暗記しようとしていた。私もまた、同じであった。

最後の4時間目に、いよいよ試験が行われる。まず、先生が、くじを作って、順番を決めることになった。

一番前にいた私が、一番最初にくじを引いた。くじを開くと、「1」と書いてある。

1番めかよ…

心の準備ができていない私は、1番のくじを引いてうろたえた。

すると、隣の席にいたリン・チアン君が、

「僕のと交換しますか?」

と言ってきた。彼は、「8」と書かれたくじを引いていた。

「いいの?」

「ええ。僕はどうせなんにも準備してきてませんから」

そういえば、リン・チアン君は、久しぶりに授業にでた。だから、今日のマラギの試験のテーマを、何も聞かされていなかったのである。

幸い、先生は私が1番のくじを引いたことをまだ気づいておられない。

私が逡巡していると、リン・チアン君は、私の「1」のくじをサッと取り上げ、代わりに「8」のくじを私に渡した。

「大丈夫ですよ」とリン・チアン君。

「さあ、みなさん、くじを引きましたね。1番は誰ですか?」と先生が教室をひととおり見渡して質問した。

チン・チアン君がはい、と手をあげ、そのままみんなの前に出て、「結婚の条件」について発表をはじめた。

まったく準備をしていないにもかかわらず、堂々と発表している。

いつもはおとなしくていい加減なリン・チアン君の度胸に感服した。

見直したぞ、リン・チアン君。

そして次々と発表が続く。ほとんどの人が、完全原稿を作ってきて、それを一生懸命暗記していた。

かくいう私もそうである。いよいよ私の番となり、前へ出た。

「これから、結婚したい相手の条件について、お話ししたいと思います。条件は3つあります。1つは、…」

と話しはじめるのだが、1つめの条件であげた「扇風機」のたとえ話が、ややこみ入っていて、原稿の通りに思い出すことができない。

「むかし、こんな経験がありました。暑い日に友人達と食事をしていたとき、1人の友人が突然立ち上がって、…」

ここまで話して、「しまった!」と思った。あまりに緊張していて、「テーブルの横に扇風機があった」というくだりを説明するのを、忘れてしまったのである。

なんとか軌道修正するが、今度は「扇風機をまわす」という表現を、ど忘れしてしまう。

結局、これはウケる、と思って用意した扇風機のエピソードが、何が何だかわからないまま終了。きっとこの話は伝わらなかっただろうな。聞いている方は、「結婚の条件なのに、何で突然扇風機の話なんか持ち出したんだろう?」と思ったに違いない。

そして、いつものように自己嫌悪。人前で話をする商売をしているのに、何でこんな他愛もない話すら、できないのだろう。

不調から、まだ抜けきれていないようである。

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