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ウリ班(バン)チング

9月22日(火)

前半の文法の授業。

相変わらず静かである。重苦しい雰囲気が続いている。

文法の先生は、かなり元気な先生である。だが、学生たちはその元気な先生とは対照的に、ほとんど反応を示さない。

先生からしてみれば、本当に授業をわかってくれているのか、とか、授業を楽しんでいないのではないか、とか、さまざまな心配がよぎるのだろう。「みんな、どうしてこんなに静かなの?!」と、先生も少し焦り気味である。

業を煮やした先生が、ある提案をする。

「今週の金曜日、みんなで一緒に昼食を食べましょう!どうですか、みなさん」

正確に言えば、この提案は、今日にはじまったことではない。

先週も、授業中に文法の先生が提案されたのであった。

だが結局、先週はなんの動きもなかった。

そこで再び、先生が提案したのである。

「せっかく同じ班で勉強しているのだから、一緒に昼食を食べたりして、もっと親しく勉強できたらいいでしょう」と先生。

だが、やはりみんなはあまり乗り気ではない。金曜日は予定があります、という人もけっこう多い。

「じゃあ何曜日なら大丈夫ですか?…火曜日?じゃあ来週の火曜日にしましょう」と先生。

「みなさーん。わかりましたね。来週の火曜日に一緒に昼食を食べるので予定を開けておいてくださいよー」

このやりとりの中に、なんとかこの班の重苦しい雰囲気をよくしよう、という先生の強い思いが感じられた。いや、思い、というよりも、焦り、といった方がよいか。

しかし、実際のところ、彼らは別に仲が悪いわけでもないし、やる気がないわけでもない。現に、後半のマラギ(会話表現)の時間になると、けっこうみんなが積極的に喋るようになってきた。前半の授業と後半の授業の雰囲気が、ずいぶんと違ってきたのである。

といって、前半の文法の先生に問題があるのかというと、決してそうではない。教え方は実に丁寧だし、なによりも表情豊かである。

先生と学生との間の重苦しい雰囲気の原因は、ちょっとした、歯車の食い違いなのだ、と思う。

さて、私の拙い経験からすれば、先生が学生に食事会や飲み会を提案したり誘ったりして、学生が負担に感じない、ということは、まずない。

だから私は学生に対して、私の方から食事会や飲み会の提案を、できるだけしないように心がけている。

今回の場合も、おそらく学生が幾ばくかの負担を感じたことであろう。

しかも、先生は「定期的に一緒に昼食を食べましょう」とも考えておられるようである。

そこまでする必要があるだろうか?

それに、一緒に昼食をとったことによって、授業の雰囲気がよくなるのだろうか?とくに、すでにコミュニティーができてしまっている中国人留学生たちにとっては、一緒に昼食をとることで、なにか劇的に関係が変化する、などということは、これまでの経験上、ほとんどないといってよいだろう。

それよりも、「一緒に食事をすれば、必ずやよい関係が築けるはずだ」という思考様式そのものが、やはり韓国文化らしくて、興味深い。

どうもいつもの悪い癖で、つい教員の立場になってグダグダと考えてしまうな。まったく、厄介な学生である。

後半のマラギ(会話表現)の授業。

テキストに載っている会話文を、2人がペアになって、読む練習をする。私は右隣に座っているリ・チャン君とペアを組む。

ひととおり読み終わって、時間が少し余ったので、リ・チャン君が私に聞いていた。

「中国の歴史に関心がありますか?」

「あるよ」

「ボクも歴史に興味があるんです。第二次世界大戦の時から、中国と日本の関係は悪くなってますよね。でも、実際に、一般の日本人たちは、中国人に対してどう思っているんですか」

突然の質問に、どう答えていいかとまどう。

「ボクは、日本に対していい印象を持っています」

習ったばかりの「印象」という単語を使って彼が言う。

「たしかに、政府どうしの関係は悪いかも知れないけど、一般の人たちは、中国に対してそんなに悪い印象を持っていないと思うよ」

それを聞いて、彼は安心したような表情をした。

「そこの2人、何を話しているの?」

いつのまにか、ペアによる練習が終わり、先生の説明が再開されている。

まさか、日本人の対中国人観について話していました、とはいえない。リ・チャン君は、テキストを指さしながら、

「テキストの文章について話していました」

と答えた。機転のきく青年である。

「そう、じゃあ、5分時間をあげますから、いまここで話を続けてもらっていいですよ、さあ」

「…いえ。…もう終わりました」

私は力なく答えた。

あたりまえのことだが、授業中は、私語禁止である。とくに先生が説明されているときに私語するのは、もってのほかである。

私は実に久しぶりに、授業中に私語してしまったことに対して、先生に叱られたのであった。

だが、リ・チャン君とのヒソヒソ話を通じて、ある確信をする。この班は、先生が考えるほど、特別に無反応で重苦しい班ではない。私が前学期までに経験した班のチングたちと、何ら変わるところがないチングたちだ、と。

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