続・とりとめのない授業風景
9月28日(月)
今日も授業に遅れてきたリ・チャン君が、休み時間に話しかけてきた。
「昨日、ボクの夢にキョスニムが出てきたんです」
「え?私が?」
「ええ」
「どんな風に出てきたの?」
「キョスニムがボクに、授業で歴史を教えている夢です」
夢の中の「私」は、いったいどんなことを教えていたのだろう。それ以上は、なんとなく聞くことができなかった。
さて、文法の授業の2時間目。
それまで、元気に授業を聞いていたハナさんが、急に下を向いて、先生の言うことに何も反応しなくなってしまった。
そのことに気づいた先生が、「ハナさん、どうしたの?」と聞く。
「すいません。ヒュジ(ちり紙)をください」と下を向いたまま蚊の鳴くような声で言った。
ヒュジを渡すと、それで顔を拭っている。
どうやら泣いているようである。
授業中に、これといった原因があったわけではない。
何かを思い出したのか、単身で外国に留学しているゆえの漠然とした寂しさからなのか、あるいは直接的な原因があるのか、よくわからない。
いずれにしても、ふだん、誰よりも元気なハナさんが泣いたことは、わが班のみんなにとって、意外に感じたことだろう。
文法の時間が終わり、休憩時間にハナさんは教室を出た。
休憩時間が終わり、後半の授業を担当される「よくモノをなくす先生」(マラギの先生)が教室に入ってきた。
「今日の3分マラギは、ハナさんが担当なんですけど、なにか悲しいことがあったみたいで、外で休んでいます」
先生も、原因がよくわからないようだ。
「さて、ハナさんが戻ってくるまでの間、どうしましょうか?最初に、今日やる予定の授業を済ませましょうか?」
先生も、どのようにしてこの時間を過ごせばいいのか、考えあぐねていらっしゃる。
私が提案する。
「ソンセンニム(先生)!先生は子どものころ、シゴル(田舎)に住んでいたそうですけど、その時の話を聞かせてください。いろいろと面白い話がある、と聞いてます」
前学期に「よくモノをなくす先生」の授業に出ていた妻から、「先生の田舎ネタは面白い」という話を聞いていた。ちょっとどんよりした雰囲気を和らげようと、よかれと思って提案した。
そもそも、先生の家族がなぜシゴルに住んだのか、という話からはじまる。小学校の教員をしていたアボジ(お父さん)は、シゴルの学校に赴任すれば、ポイントが上がる、という理由で(どんなポイントなのかはよくわからない)、シゴルの学校を転々としていた。その影響で、先生も子どものころ(1歳から7歳くらいまで)、シゴルに住んでいたのだという。
あるとき、アボジ(お父さん)が、ウルルンド(鬱陵島)に転勤の希望を出そうとしたので、オモニ(お母さん)がそれを必死にとめた、ということがあった。「あやうく、離れ小島のウルルンドに住むところだったのよ」と先生。
ここで、ハナさんが教室に戻ってきて、「遅くなってすいません」といって、3分マラギをはじめた。
目は赤く腫れていたが、流暢な韓国語で3分マラギを終えた。
3分マラギのあと、ひとりひとりが感想を述べる。
みんな、ハナさんの韓国語を褒めたたえた。パンジャンニム(班長殿)のロン・チョン君は、「とてもいい発表だったと思います。みんなでもう一度拍手しましょう」と、拍手をうながす。彼らは、本当に優しい。
「ハナさんの悲しそうな表情を見て、思い出したことがあったわ」と先生。
「小学校に入って、田舎から町に引っ越したんだけど、なにか動物を飼いたい、と思って、小学校の門の前で売っていたひよこを2匹買ったことがあってね」
日本でも昔、小学校の門の前で「カラーひよこ」を売っていた、なんて話を聞いたことがあるな。ひよこに青とか緑とか着色して売る、という商売。ひよこのうちはかわいいが、やがて鶏になると、子どもが育てるには手に負えないほど大きくなってしまうので、たいへんな目にあった、などという話をよく聞いた。私には経験がないけれど。
「で、アパートの中で飼っていたのね。ある時、私がそろばん塾に行って勉強していると、塾に電話がかかってきたの。私の弟からだったのよ」
「私が電話に出ると、弟は泣きながら、『おねえちゃん!ひよこを踏んづけちゃった!』というのよ。その話を聞いて、涙がボロボロこぼれてきて、そろばんの練習がまったく手につかなくなったの」
「早く帰りたい、と思ったんだけど、練習が全部終わるまで家に帰してくれなくて、いつもは全問正解なのに、その時は、50問中、40問も間違えてしまったのよ」
「で、家に帰って、弟と一緒にアパートの庭にお墓を作って、泣きながら(お墓に)牛乳をかけてあげたのね」
どうして牛乳をかけたのかはよくわからない。
先生の話はまだ続く。
「で、1匹が残ったんだけど、1匹だけじゃかわいそうだと思って、今度は3匹買ってきて、合計4匹を育てることにしたの」
「そうしたら、どんどん大きくなって、体が白くなって、赤い鶏冠が生えてきて、とてもアパートでは飼えないくらい大きくなってしまった。それで、田舎のハラボジの家に預けることにしたのよ」
さて、その4羽の鶏は、その後どうなったのか?
「ある時、田舎のハラボジのところに行ったら、美味しいフライドチキンが出てきたの。それを全部平らげたあと、ハラボジに、実はこのフライドチキンは、飼っていた3羽の鶏だった、と言われたのよ」
よくある話である。
で、4羽のうち、3羽はフライドチキンになり、あと1羽はどうなったのだろう。
「あと1羽は、田舎の家で飼っていた犬とケンカして、犬に殺されたのよ」
なんとも悲しい話である。
動物を飼っていると、たいてい最後は、悲しい思い出で終わるものである。
「ハナさんの悲しそうな表情を見ていて、急に小学校の時のひよこの話を思い出したわ。ひょっとしてハナさんも、ひよことか飼ってる?」
そう言えば、田舎で飼っていた犬についても、面白い話を聞いた、と妻が話していたな。
「ソンセンニム!こんど時間があったら、田舎で飼っていた犬の話をしてください!」と私。
「ああ、あの話ですか。今度またお話ししましょう」
授業が終了。教室を出ると、またクォ・リウリンさんと廊下ですれ違う。
「アンニョンハセヨ?」
「アンニョンハセヨ?こんどのマラギ大会、出る?」
「いえ、出ません」
「出なよ」
「自信がないのでダメです。キョスニムは出るんですか?」
「うん」
「じゃあ、その時に応援に行きます」
「たぶん、予選で落ちると思うよ」
「大丈夫ですよ」
先週の金曜日と同じような、とりとめのない授業風景である。
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