髪切った?
9月14日(月)
「髪切った?」と言えば、タモリ氏が、番組で久しぶりに会ったゲストに対して発する言葉としてよく知られている。
正確に言えば、タモリのモノマネをするコージー富田氏が流行らせた言葉なのだが。
ここ語学堂では、学生の誰かが髪を切ると、語学の先生がそれに気がついて、必ず「あら、髪を切ったのね」と声をかける。
そういえば、1級のときから、ほぼ全員の先生が、散髪したての学生の髪に反応していた。先生が教室に入るなり、学生の顔を見渡して、散髪をしたり髪型を変えたりした学生を見ると、ニコニコしながら、「お!髪を切ったのね~」とおっしゃり、男子ならば「かっこいいわね~」、女子ならば「かわいいわね~」などとつけ加える。
日本の大学では、まず考えられないことではないだろうか。私が授業や演習などで、学生に対して「髪切った?」とは、まず聞かない。教員が学生に対してそういうことを言うことは、好ましくないこと、と考えられているからである。
しかしここでは、そのセリフはタブーではない。そのため、ときに問題が起こることもある。
2級のときだったか、ある女子学生がパーマをかけてきた。
例によって、先生がそのことに気づき、「お!パーマをかけたのね~。かわいいわよ」というと、ある男子学生がふざけて、「アジュンマ、アジュンマ(おばさん、おばさん)」とからかった。
「そんなことないわよ。かわいいじゃないの」と、先生は必死にフォローする。さらに困った先生は私に向かって、
「ね?かわいいですよね」
と同意を求めてきた。当然私は、「ええ」と答える。
だがときすでに遅し。「アジュンマ」とからかわれたその女子学生は、パーマをかけたことを後悔したような顔をしたのである。
念のため言っておくと、その女子学生と、彼女をからかった男子学生は仲がよかったので、彼らの関係だからこそ許されるものだったのかも知れない。そうは言っても、あまりいい気持ちはしなかったのだろう。
だから、満座の席で髪型の変化に言及するのは、かなり微妙な問題なのではないか、と、つい考えてしまうのである。
さて、かくいう私も、先週の金曜日の午後に散髪したので、週明けの今日は、散髪したての髪で授業にのぞむことになった。
文法の先生が教室に入ってくるなり、散髪した私の頭に即座に気づいて、
「あら、髪を切りましたね~。かっこいいですよ」
と、例によってニコニコしながら声をかけてくる。
若い学生ならともかく、こんなオッサンにも同じように「髪切りましたね~」とかけてくるのは、どうもよくわからない。
続く後半のマラギ(会話表現)の先生も、教室に入ってくるなり、私に向かって、
「お!髪を切りましたね~。かっこいいですよ」
と、判で押したような言葉をかけてくる。
こうなると、髪型を変えたことに関して話題にすることが、エチケットなのではないか、とすら思えてくる。
「女子校なんかではよくあることだよ」と妻。
「やっぱり髪型を変えたり散髪したりすると、気づいてもらいたいと思うものだから、先生も話題にするんでしょう」と。
語学の授業なのだから、そういうところでとっかかりを作って、学生と会話するねらいがあるのではないか、と妻は言う。
なるほど、そういうことか。話題のとっかかりね。だがよりによって、オッサンにまで同じ手を使うことはないだろうに、とも思う。
さて、今日も夕食後、例によって、喫茶店で勉強をすることにした。
よく行く喫茶店で、例によって「アイスアメリカーノ」を注文すると、顔見知りの若い店長(私が勝手に店長だと思いこんでいる人)が私を見て言った。
「あ!髪を切りましたね。かっこいいですよ」
な、な、なんと、喫茶店の店長までもが、私が髪を切ったことを話題にしたぞ!
私が髪を切ったことがそんなに話題になるようなことか?
どうもよくわからない。
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