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これが私の生き方

10月13日(火)

このところ、中国人留学生たちは忙しい。

理由は、来年3月の大学入学をめざして、さまざまな書類作成を行っているためのようである。

外国人留学生が、韓国の大学に出願する際にどのような書類が必要なのか、よくわからないが、彼らはいま、自己推薦書を韓国語で書いては、語学の先生に添削してもらっている。

だからこの時期、語学の先生も、彼らの書いた書類の添削で忙しいのである。

休み時間、おとなしいヤン・チャン君が私のところにやってきた。

「キョスニム、英語、わかりますか?」

と言うと、ノート1ページいっぱいに書かれた、殴り書きの英語の文章を見せてきた。

「これ何?」

「大学の入学のために、高校の時の先生が書いて送ってくれた推薦書です。もし文法とか単語とかで、間違っているところがあったら直してください」

久しぶりの英語の文章である。読んでみるものの、実にわかりにくい文章である。と言うより、文章の体をあまりなしていないように思える。

「これ、本当に、高校の先生が書いてくれたの?」

「いえ、もとは中国語で書かれていたんですけど、大学に出すときには、韓国語か英語で書いた推薦書を出さなければならなくて、英語がわかるチングに翻訳してもらったんです」

「そのチングは、英語が得意なの?」

「いちおう、大学院に通ってます」

うーむ。どうも不安である。日本でも経験していることだが、中国人学生たちの多くは、英語が得意なわけではない。かなり怪しい英語であることは間違いない。

しかし、私の英語能力からして、休み時間の10分で推敲することなどとてもできない。

本来ならば、英語を母語としているハナさんや、英語ができるカエヌナに頼めばいいのだろうが、彼にとっても、相談しやすい人間が私ぐらいしかいなかったのだろう。

細かな間違いだけを直すにとどめる。

「これ、いつまでに出すの?」

「23日までです」

「じゃあ、まだ時間があるね。できれば、英語ではなく、自分で韓国語に翻訳して、それを語学の先生に直してもらった方がいいんじゃないかな?」

「でも、いろいろと他にも作らなければならない書類もあるし…」

「もし時間があったら、いっぺんやってみなよ」

「わかりました。ありがとうございます」

それにしても、せめて高校の先生自身が、英語で書いた推薦書を送ってくれれば問題ないのに…。

さて、後半の授業では、ハン・ビヤという人についてのインタビュー記事を読む。

先生によれば、ハン・ビヤ氏は、「風の娘」の異名を持つ、韓国を代表する旅行家である。全世界の奥地ばかりを選び、歩いたりヒッチハイクしたりして旅しているという。その生き方は、若い女性の憧れでもあり、憧れの女性1位に選ばれたこともあるという。

この「旅行家」という職業に、カエヌナが噛みつく。「旅行」とはあくまでも趣味のものなのだから、「旅行家」が職業になるのはおかしい。「冒険家」や「探検家」なら、まだわかる、と。

これに対して先生が説明する。旅行家とは、旅行会社などから依頼されて、世界各地を旅行して、ツアーなどで見るにふさわしい場所を見つけて、紹介するのが仕事なのだ、と。

どうもよくわからない説明である。私の乏しい知識からすれば、世界の奥地を旅行しながら、その様子を本にまとめている人であり、旅行会社云々とは関係がない人だと思ったのだが。

「日本にもいるでしょう?旅行家という職業の人」と先生。

「日本にはいません」とカエヌナが答える。

先生のおっしゃる意味での「旅行家」はいないかもしれないが、旅行をすることを仕事にしている人はいるように思い、私も発言する。

「むかし、兼高かおる、という人がいて、世界中を旅していました。その様子は、毎週テレビで放映されていました」

カエヌナが、はぁ?みたいな顔をする。兼高かおるを、知らない世代なんだな。

テキストの文章自体は、さほど面白いものではなかったが、この文章の見出しに、

「간단하게 따끗하게 그리고 하고 싶은 일을 하면서…  이것이 한비야 씨가 사는 방식이다」(簡単に、あったかく、そしてしたいことをしながら…これが、ハン・ビヤ氏の生き方だ)

とあった。

「みなさんも、これにならって、形容詞を3つ使って、自分の生き方についてキャッチフレーズを作りましょう」と先生。

1人1人が、自分のキャッチフレーズを作って発表する。

私の番が来た。

「성실하게 우직하게 그리고 재미있게 일을 하면서…이것이 내가 사는 방식이다」(ソンシルハゲ ウジクハゲ クリゴ チェミイッケ イルル ハミョンソ…これが私の生き方だ)

「なるほど。キョスニムの今の生き方そのものですね」

先生はそうおっしゃった。

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