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ともに生きる社会

10月5日(月)

相変わらず、韓国の路線バスには慣れない。

以前にも書いたように、バスに乗ってから降りるまでは、一種の格闘技である。一瞬たりとも、気を抜くことができない。

目的のバスが停留所に来ると、そのバスめがけて走り寄って、「乗ります!」という意思表示をしないと止まってくれない。

停留所に止まったバスに乗るときにも、モタモタしていると、運転手に

「早く乗りなよ!アジョッシ(おじさん)」

と注意される。

なんで客が叱られなきゃならないんだ?それに自分より年上のアジョッシにアジョッシ呼ばわりされることはないだろ!と、その時は本当に腹が立つ。

乗ったら乗ったで、クレイジータクシーならぬ、「クレイジーバス」状態。しっかりと踏ん張っていないと、右に左に転げ回ることになる。

降りるときも、降車ボタンを押すだけではダメだ。バスの降車口に立って、「次降ります!」という意思表示をしないと、停留所を通り過ぎてしまう。

この間などは、降車ボタンを押して、降車口に立っていたのにもかかわらず、停留所を通り過ぎたからね。

結局、「アジョッシ!降ります!」と叫んで、降車ドアを開けてもらった。

なんのための降車ボタンなんだろう。

さて、今日の語学の授業、後半のマラギ(会話表現)の時間のは、「障害者が社会で生きていくためには」というのがテーマ。

「韓国では、バスに乗るのが本当に大変です。私ですらそうなんですから、障害者がバスに乗るのは、かなり大変だと思います。バスとか地下鉄とか、韓国の「大衆交通」(公共交通機関)では、障害者のためにどんな努力がなされているのでしょうか?」と、私が質問する。

路線バスのあのような現状を見ると、とても障害者のことを考えていないだろうな、と思っての質問であった。

先生が答える。

「最近は、障害者のことを考えて、ステップのないバスも増えてきているんですよ。まだ決して多くないけれど、これからどんどん増えていくと思いますよ」

この答えに、カエ氏が反論する。

「そうではなくて、問題なのは運転手の荒っぽい運転の仕方だと思います」

そうそう、言いたかったのは、そういうことだ。

「どんなによいバスが作られても、運転手の運転がこわければ、障害者がバスに乗ることはできません」と、私もたたみかける。

これに対して先生の反論。

「でも、バスの運転手さんは、以前に比べて、だいぶ親切になりましたよ」

えぇぇぇっ?!信じがたい発言。

「とても信じられません」と私。

「本当のことですよ。私の高校時代にくらべたら、とてもよくなりました。以前、バス会社は民間会社だったんだけれど、ある時、市営バスになって、運転手さんはみんな公務員になったんです。で、いちおう公務員ですから、住民サービスとかをちゃんと学んだ人が多くて、以前に比べて格段によくなったんです」

やはり信じられない。

あの運転の仕方の、どこが親切なのか?障害を持った人だけではない。お年寄りにとっても、かなり乗りにくいはずである。

つまりは、体力的に弱い人を、乗せる気がないのだ。そうとしか思えない。

「実際、障害者がバスに乗ったりする光景をあまり見たことがないでしょう。私もほとんどないんですよ」と先生。

だから、今のところ問題になっていないのだ、というニュアンスに聞こえる。

うーむ。逆じゃないだろうか。路線バスがあんな運転の仕方をしているから、障害を持った人は、とてもじゃないけど大衆交通(公共交通機関)を利用できない、と思っているのではないだろうか。

結局そのことは、障害を持つ人たちの社会進出を阻んでいることになりはしないか?

「じゃあ、障害を持つ人たちは、どうやって社会活動をすればいいんですか?」と私。

このあとも、先生は事例を出しながら説明なさるが、どうもよくわからない。

誤解のないようにいうが、決して私は先生を責めているわけではない。先生はある意味、とても素直なのである。そして私が知る、韓国人の多くが、こうした素直な人たちである。

だがその素直さが、ときに、認識を誤らせることもあるように思う。

4級に入って、語学の素材として、環境問題、男女差別問題、障害者問題など、社会問題を取り扱うことが増えてきた。

だが残念なことに、何ら本質に迫れないまま、上すべりした話が続く。

そのたびにもどかしい思いをする。もっと、ちゃんと韓国語が喋れたら、さまざまな問題に関して、自分の意見を言えるのにな、と。

いや、語学力の問題だけではないのかも知れない。そもそもが、どれも難しいテーマばかりである。私自身もまた、社会が抱える問題に関して、何も見えていないのかも知れない。

ここ、語学堂にいると、韓国社会が抱えている問題や、それに対する認識の違いがはからずも映しだされている気がして、興味が尽きない。

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