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学術大会事情

韓国では、日本にくらべて、「学術大会」「学術会議」と呼ばれる行事が多いような気がする。

いわゆる「学会」とか、「シンポジウム」とかいうものだが、これが、ビックリするくらいの頻度で行われているのである。

ひとつ特徴的なのは、「学術会議」「学術大会」なるものが、平日に行われる場合がけっこう多い、ということである。

大学主催の「学術大会」も、平日のまる一日を使って、行われることが多い。

これは、日本ではまったく考えられないことである。

なぜなら、日本の大学では、平日は、教員が授業だの、会議だのに追われているため、「学術大会」のような催しを、贅沢にもまる一日使って行うことなど、絶対にありえないことだからである。

ところが韓国では、平日に学術大会を実施することに、何の障壁もないようである。

しかも、1つの学問分野につき、週に1回くらいのペースで、韓国のどこかで「学術大会」が行われている。

当然、研究者の数は限られているものだから、同じ人が、毎週のように、発表者、あるいは討論者として、壇上に上がることになる。

いつも不思議に思うのだが、そういった先生方は、いつ、発表の準備をしているのだろう?それに、授業準備は、いつしているのだろう?というか、授業は、いつしているのだろう?

さまざまな疑問がわく。

ひとつ言えることは、バカ正直にいろいろな学術大会に参加していると、それだけに時間がとられてしまい、自分の勉強がおろそかになってしまう、ということである。

12月3日(木)

慶州で、学術会議があるので、ぜひ参加してください、と、ある先生に言われる。韓国での指導教授も発表なさるとのことだったので、二つ返事で参加することにした。

ところが、この学術大会、具体的にどんなテーマでやるのか、いっさい聞かされていない。

その先生に聞けばすむ話だったのかも知れないが、なんとなく聞きそびれてしまった。

断片的な情報を手がかりに、インターネットで情報を探すが、まったくヒットしない。

でもまあ、指導教授が発表されるのだから、まったく関係ないテーマではあるまい。

ということで、当日、その場所に行くまで、どんなテーマで行われる学術大会なのか、まったく知らなかった。

これもまた不思議な話だ。日本であれば、事前にどんな内容のシンポジウムなのかを確認して、自分の関心に近ければ参加する、というのがふつうである。

だが、こちらではそんな悠長なことは言ってられない。とにかく、参加することに意義があるのである。

さて、その場所に行って驚いた。私の専門分野とは、かなりかけ離れたテーマである。

当然、韓国語の発表を聞いても、ちんぷんかんぷんである。

「場違いだったな」と気づいたときにはすでに遅い。「学術大会」のあとの、晩餐にまで参加させていただき、(あまり関係ないのに申し訳ないな…)と思いつつ、夕食をいただく。

そう、「学術大会」には必ず、晩餐がつく。これも、日本では考えられない特徴である。

この日の昼、大学院生の知り合いから電話がかかってきた。

「明日、うちの大学で、国際学術大会があるんです。とても重要な大会なので、ぜひ出席してください。ときに、今晩、予定はあいてますか?」

「いま、学術大会で慶州にいるんですよ。おそらく、こちらで晩餐があるので、戻るのは夜遅くになると思います」

「そうですか。実は今晩、明日の発表者の先生方との懇親会が予定されていて、それにも参加してほしい、と思ったんですが」

「でも、そういったわけで無理です」

「そうですね。では、明日の学術大会には、ぜひ出てください」

「いろいろと用事があるので、どうなるかわかりませんが、時間があけばのぞこうと思います」

明日、大学で開かれる、という学術大会も、やはり自分の専門分野とはだいぶかけ離れたテーマである。

しかも、朝9時から夜6時まで、まる一日行われる。当然、そのあとは晩餐だろう。

となると、まる一日、自分の専門分野とは関係の薄い学術大会のために、時間を割かなければいけなくなる。

かかえている仕事が多いことを考えると、できれば避けたいな、と思ったのだが、ひごろお世話になっている先生が中心的に関わっている学術大会なので、参加しないわけにはいかない。

ということで、2日連続で、自分の専門分野とはかけ離れた「学術大会」に参加することになった。

12月4日(金)

朝9時、学術大会の会場に向かう。

主催者の先生と挨拶すると、

「会が終わったあとの晩餐にも出席しなさい」

と言われる。

肝心の学術大会の方は、やはり自分の専門分野とは異なる分野の話だったため、ちんぷんかんぷんである。

途中、自分の仕事のために中座するが、午後も引き続き、難解な発表や討論を聞くことになった。

夕方6時に会が終わり、用意されたバスで、晩餐会場である市内のホテルに向かう。

専門分野の異なる先生方なので、知り合いはほとんどいない。

(いつもながら、「おまえ、誰だよ?」みたいに見られて、気まずい感じになるだろうな…)

と、いつもの被害妄想をふくらませつつ、ホテルに到着すると、ある事件が起こった。

学術大会とはまったく関係のない女性がひとり混じっていて、晩餐会場に居座っている、という。

晩餐会は、主催者の先生方と、発表者、討論者の先生方、それに、関係者のみが参加できる。

(驚いたことに、この日、実際に学術大会の準備に汗をかいていた大学院生すら、この会場で一緒に食事をすることはできない。やはり、教授と学生の間には、厳然たる区別が存在しているのだ!)

ところが、その女性は、そのどれにも該当しない女性だ、というのである。

その女性は会場に居座って頑として出ようとしなかったため、最終的には、警察を呼んで連れ出してもらう、という騒ぎにまで発展した。

おそらくただで夕食がいただけることに目をつけたのではないか、と、一連の騒動を見ていた出席者の先生方が笑いながら推測した。

この騒ぎを見て、思う。

この晩餐会の中でいちばん関係のない人間は、実はこの私なのではないか、と。

まったくの専門外の人間である私は、主催者の先生のご厚意に甘えつつ、晩餐を美味しくいただいたのであった。

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