いまさら「ヨン様」
1月11日(月)
原稿がひとつめのヤマを越えたので(まだいくつもヤマがある)、夜、市内の本屋に出かけた。買いたい本があったためである。
今年の元日、近郊の大学のK先生夫妻と一緒に、大邱の近郊にある銀海寺に初詣(?)に行ったときのことである。K先生の奥さんがおっしゃった。
「このお寺、ペ・ヨンジュンが来たんですよ」
聞くと、俳優のペ・ヨンジュン氏が、本の取材のためにこのお寺を訪れたのだという。最近、ペ・ヨンジュン氏が、韓国の各地を旅行して、韓国のよさを紹介する本を出版したのだそうだが、そのなかに、このお寺が紹介されているのだという。
「大邱近郊では、紹介されているのはここだけなんですよ」
銀海寺は、たしかにすばらしいお寺だった。ガイドブックに載っていて観光地化されているようなお寺とは一線を画する。案内をしていただいたK先生夫妻も、「ここは、外国からお客さんが来たときに案内する、とっておきの場所なんです」とおっしゃった。豊かな自然に囲まれた、韓国の伝統的建造物、そしていまに生きる信仰。誰もが、凛とたたずみたくなるような場所である。
ペ・ヨンジュン氏も、なかなかシブい場所を選んだものだ。
私はなぜか、このことがひっかかり、ペ・ヨンジュン氏のこの本を手にとってみたいと思ったのである。
日本では、「ヨン様」の愛称で親しまれているペ・ヨンジュン氏。断っておくが、私は決して彼のファンではない。「冬のソナタ」も、全話、見るには見たが、それほどのめり込んだわけではなかった。「ホテリアー」も見たが、どちらかといえばキム・スンウに肩入れした。「太王四神記」にいたっては、見ていない。
韓国におけるペ・ヨンジュン氏の人気は、日本のような熱狂的なものではない。どちらかといえば、むしろ冷めているといえるだろう。はっきり言って、韓国における人気は、微妙なのだ。
以前、妻が、日本に留学したことのある韓国人の友人に聞いたことがあるそうだ。
「ペ・ヨンジュンの韓国における人気って、日本でいえば、どの俳優にあたりますか?」
その方が答えた。
「うーん。…日本でいえば、寺脇康文くらいではないでしょうか」
なるほど、たしかに微妙である(いまのこの発言は、「ヨン様」ファンと寺脇康文ファンを、いっきに敵にまわしたかも知れない)。
ペ・ヨンジュン氏にしろ、チェ・ジウ氏にしろ、「元祖韓流スター」として、韓国では認識されているのである。先日見た「女優たち」という映画でも、チェ・ジウ氏が、なかば揶揄的に「元祖韓流女優」というキャラ付けをされていた。
しかしながら、どう見られていようと、ペ・ヨンジュン氏は、まぎれもなく、日本人の韓国に対する印象を一変させた歴史的人物だ、と思う。これはファンならずとも、異論のないところであろう。
さて、その日本では、ペ・ヨンジュン氏の人気は、まだ健在なのだろうか。
一時の熱狂的なブームにくらべれば、やや落ち着いたのかも知れない。
そこで私も、いまさらながらペ・ヨンジュン氏に注目したくなったのである。
たとえていえば、いまになって「ビリーズ・ブートキャンプ」をはじめる、というような心境か。
書店で買い求めた、ペ・ヨンジュン著『韓国の美をたどる旅』。
思ったよりも重厚な本である。彼自身の撮影した写真や文章が、ふんだんに盛り込まれている。すごく手のかかっている本だな、と思う。
日本でも、翻訳されて出版されているようだが、やはり人気のようで、品切れが続いているようである。
しかし、本当のファンの方には、原文で読むことをおすすめする。
まだチラッとしか読んでいないが、わかりやすく、とても味わい深い文章である。「ヨン様」に少しでも近づきたいのならば、やはり韓国語を勉強するしかない。
この本のまえがきで、彼は書いている。
ある日本の記者に、「韓国でおすすめの場所、名所はどこですか」と聞かれたことがあった。しかし答えることができなかった。いったい自分は、韓国の文化について、どれほど知っていたのだろう…。
そこから、彼の「韓国の美をたどる旅」がはじまる。それは同時に自分探しの旅でもあり、さらには、自分を応援してくれる「家族」(ファン)へ感謝を意味する贈り物でもある。
ビジネスのための、リップサービスの文章だ、と邪推することもできるかも知れない。しかし私はそうは思わない。「韓流スター」という「異文化体験」を通じて、彼の中で、何かが変わったのではないか。
現実に、このような本を作りあげてしまったことが、なによりの証ではないだろうか。
くり返すが、私は「ヨン様」のファンでもなんでもない。ただ、彼がこの先、どこへ向かおうとしているのか。そのことに関心を持たずにはいられないのである。
え?わざわざ韓国で1年以上勉強した結論が、「ヨン様はやっぱすげえ!」ってか?
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コメント
はじめまして、
大変興味深く、私にとっては長文ですが、一気に読んでしまいました。
投稿: nakapa | 2010年12月23日 (木) 15時53分
お読みいただきありがとうございます。どうも話が脱線してばかりで、いつも文章が長くなってしまいます。ペ・ヨンジュン氏の人気は根強いようで、当ブログの中で、この記事は最もアクセス数が多いようです。ふだん全く読まれることのない(笑)当ブログとしてはめずらしい現象です。
投稿: onigawaragonzou | 2010年12月24日 (金) 02時20分