年末年始を遊ぶ
12月31日(木)~1月1日(金)
数日前、電話が入る。
「どうも、Kです」
近郊の大学にお勤めの、K先生(日本人)である。
先日、K先生のお宅におじゃました話は、ここに書いた。
「先日、紅白歌合戦を一緒にみよう、と約束したこと、忘れていませんよね」
「偏屈」なK先生らしい物言いである。
「ええ、忘れていません」と私。
「じゃあ、大晦日の夕方5時に迎えに行きますので、大晦日は我が家で過ごしましょう。紅白歌合戦を見ますから、当然その日は、我が家に泊まっていただきます。泊まる準備をしておいてください」
「わかりました」
「それと、翌日は、近くのお寺に初詣に行きます。そして時間があったら、私が天然のスケートリンクを知っていますので、一緒にスケートをしてもらいます」
「天然のスケートリンク?」
「裏山にある池です。この時期になると、池に厚い氷が張るので、私がしょっちゅう遊んでいます」
「はあ」
「じゃ、そういうことで、当日楽しみにしています」
「こちらこそ」
そして当日の31日。
慶州に行ったときに買った慶州生マッコルリ2本と、マートで買ったワイン1本を持って、妻と2人でK先生のお宅に伺う。八公山のふもとの、山里の一軒家である。
マッコルリを飲みながら、K先生の奥さんに作っていただいた「石狩鍋もどき」(本人段)をいただく。ふだん韓国料理ばかりで、日本的な料理に接していない私たちに対する、奥さんのご配慮である。韓国人である奥さんは、日本人以上に日本人的である。おしゃべりも面白い。
7時15分、紅白歌合戦が始まった。
食卓から場所を移し、プロジェクタで映し出された大画面のスクリーンで、紅白歌合戦を鑑賞する。
11時45分までの4時間半。
何年ぶりだろう。
これほど真剣に紅白歌合戦を見たのは、実に久しぶりである。
4人とも、布施明がいちばんよかった、ということで意見が一致した。
ドリカムの感動的な歌のあとに、トリに北島三郎先生が出てきて「まつり」を歌う様子は、NHKらしいシュールなギャグだったのだろうか。
紅白歌合戦が終わり、画面が「ゆく年くる年」に切り替わる。
これも、実に久しぶりに真剣に見る。
自分の勤務地に近いお寺が最初に中継されたときは、思わず食い入るように見てしまった。「ここ、すごくいいお寺なんですよ」と、私はK先生夫妻に力説した。
なるほど、そういえばこれが、私が子どものころの、年末年始の過ごし方だったのだな。
「ゆく年くる年」が終わり、チャンネルを変えると、今度はイチロー選手の、2001年から今に至るまでの、2000本以上にわたる「全安打みせます」という趣旨の番組をやっていた。
イチロー選手がヒットを打ったときの映像を、ひとつ残らず全部みせる、というもの。
ひたすら、ヒットを打つシーンだけが流れる。
それだけでなく、イチロー選手の盗塁や守備のファインプレーのシーンも全部流している。
なんとも偏執狂的な番組である。
しかしこれが実に面白い。ひごろ、イチロー選手にまったく関心のない私も、食い入るように見てしまった。
それを見た結論。
イチロー選手の繰り出す「イヤらしい当たり」を、みすみすヒットにせずにアウトにすることができるようになるためには、イチロー選手なみの守備力がなければダメである。すなわち、イチロー選手の打撃に対抗できる守備の選手は、イチロー選手をおいてほかにない!
なんとも哲学的だ。
深夜2時までかかって、2003年までの600本あまりを見たところで、就寝。
翌日。すなわち2010年の元旦。
朝、目覚めると、大きなスピーカーを通して、FMラジオで放送中の、ヴィヴァルディの「四季」が流れていた。ヴィヴァルディを目覚ましがわりに起きるとはね。
朝食のあと、「天然のスケートリンク」こと、裏山の池に行く。ご自宅から果樹園の中の登り道を歩いて20分くらいの場所である。
池は、カチカチに凍っていた。
そこで、「ジゲット」と呼ばれるソリ遊び(座布団より少し小さい木の板に2本の鉄下駄のようなものをつけたソリのようなものに乗って、2本の短いスティックで氷面を突きながら氷上をすべる氷上ソリ遊び。韓国の子どもたちが冬になるとこれでよく遊ぶという)と、スケート靴を履いたアイススケートを、これまた実に久しぶりにする。
ひとしきり遊んだあと、今度は銀海寺というところに行って、お昼に精進料理をいただき、山中にあるひっそりとした「庵」を見学。そこでも、池が凍っていたので、またしばし「ジゲット」で遊ぶ。だいぶコツをつかんできた。
「これで、本日の観光コースはすべて終了です」
銀海寺を見終わったとき、K先生が言った。
K先生の車で、自宅近くまで送ってもらう。
別れ際、時計を見ると、夕方の4時過ぎである。
「ほぼ24時間、遊びましたね」と私。
「楽しい二日間でした」と、K先生。
またの再会を約束して、お別れした。
結論。本気で遊ぶのは、すごく疲れる。
家に帰って、倒れるように眠り込んだ。
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