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旅行前の憂鬱

2月15日(月)

明日から2泊3日で、念願だった済州島に行くというのに、なんとなく心が晴れない。

帰国の準備も進んでいない。

昨日、久しぶりに、大学の北門の前にある喫茶店、「ダヴィンチコーヒー」に入った。

若い店長がいる店である。

「久しぶりにいらっしゃいましたね。この間、忙しかったんですね」

若き店長は、あいかわらず私の顔を覚えていた。

「ええ。実は、今月末に、日本に帰るんです」

そう言うと、若き店長は寂しそうな顔をした。

「そうですか…。寂しくなりますね」

「アメリカーノください」

会計を済ませて、しばらく待っていると、「アメリカーノです」という店長の声。

カウンターに取りに行くと、チーズケーキが添えられていた。

「これ、…私からのソンムル(贈り物)です」

一番安いアメリカーノばかり飲んで、あまりいい客ではなかったんだがな…。

そして今日の夕食。北門の近くにある中華料理屋。清潔な店だったので、しばしば通っていた。

そして、そこのアジュンマと、親しく話をするようになった。とくに妻は、アジュンマに気に入られたようだった。

「今月末に日本に帰るんです」と妻。

すると、アジュンマは、驚いたあと、やはり寂しそうな顔をした。

「もう、大邱には来ることないの?」

「ええ、たぶん」

「じゃあ、もう会う機会がなくなるのね」

ジャジャ麺(1人分2000ウォン)とタンスユク(酢豚)(6000ウォン)を食べて、しめて1万ウォン。会計を済ませるためにレジに向かうと、アジュンマが、店の奥から何か持ってきた。

「これ、私からの気持ちです」

小さな瓶に入った中国酒。たぶん、あり合わせのものだったのだろう。ありがたく受け取った。

以前、妻は、「いつか日本に旅行したい」というアジュンマに、自分の連絡先を教えていた。

「私が日本に行けば、また会えるわよね」

「ええ、ぜひ日本に来てください」

さて、そんな機会は、訪れるだろうか。

人づきあいが苦手ながらも、この町で、いろいろな人びとと知り合った。その人たちと別れることは、「寂しい」というよりも、「もったいない」というのが、正直な気持ちだ。

せっかく親しくなれたのに、たぶん、もう永遠に、会う機会はないだろう。それは、語学院の先生たちや、語学院で知り合った中国人留学生たちについても同じである。

たぶんいま、心が晴れない原因は、そこにあるのだと思う。

人はそれを、「寂しさ」というのだろうか。

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