本当のはじまり
2月26日(金)
あいかわらず、体力の限界、の日々が続く。しかし、お別れのあいさつにまわらなければならない。
午前11時、お世話になった教授と一緒に、八公山のふもとの食堂で昼食をご一緒する。その教授は、私とほぼ同じ世代で、専門も近いことから、親しくさせていただいていた。とくに、研究会や学会があると、誘っていただき、会場まで教授の車で、よく乗せていっていただいていていた。その意味で、私たちをいちばん気にかけてくれていた先生だった。
昼食後、大学にもどり、午後1時半に、語学院に向かう。語学院にお世話になった先生たちに、最後のあいさつをするためである。
この日、3月1日からの新学期を前に、先生方の全体会議がある、とうかがっていた。先生方が全員いらっしゃるこの機会をとらえて、お別れの挨拶をしておこうと考えたのである。
私が教わった先生方に、チョコレートをお渡しすることにした。それだけでは味気ないので、メッセージカードを添えることにする。
柄にもないことをやることに加えて、十分な時間が取れないまま、メッセージを書いた。慌てて書いたので、あるいは文法や単語に間違っているところがあるかも知れないが、もはやそれを判断する元気もない。
午後1時半すぎ、語学院の2階で待っていると、会議が終わり、先生方が会議室から出てきた。先生方は私たちに気づき、私たちも、先生方と一緒に5階の教員室までご一緒した。
5階につくと、先生方は、一目散に教員室へと入っていった。私たちもあとをついていくと、先生方は、私たちのことなどそっちのけで、パソコンの前に群がっている。
そうか。今日は、冬季五輪のフィギアスケートの日だったな。ちょうど、結果が出ているところだったようだ。
「キム・ヨナ。史上最高得点で金メダル!」
先生方が盛り上がっている。タイミングの悪いときに来てしまったものだ。
「あの…」
「あら、ごめんなさい」
ようやく私たちに気がついた。
五輪の結果でいてもたってもいられないご様子だったので、習った先生方にチョコレートをカードをお渡しして、別の部屋に移る。
別の部屋でも、やはりパソコンの前に先生方が集まっている。
同じように、お世話になった先生にチョコレートとカードをお渡しした。
お世話になった先生に対して、緊張のために、きちんとした挨拶の言葉が出てこない。すると,、3級の時にお世話になったナム先生がおっしゃった。
「またお会いできる、と考えましょう。きっと、お会いできますよ」
その言葉に、少しだけ元気をもらう。
そして慌ただしく、部屋を出た。
語学院の建物を出て、構内を歩いていると、私を呼ぶ声がした。
「미카미キョスニム!」
振り返ると、おおぜいの新入生たちに混じって、4級の時のリュ・リンチンさん、リュ・チウエさん、そして2級の時のチャン・ハン君がいた。声の主は、リュ・リンチンさんだった。
「今日、大学の入学式だったんです」
入学式が終わって、食品栄養学科の先輩に連れられて、大学の構内を案内してもらっているところだという。
「明後日、日本に帰るんですよ」と私。
「そうですか、…寂しいですね」と、リュ・チウエさんが言った。
「しっかり勉強しなさいよ」
「キョスニムも、お元気で」
そうか。彼らにとっては、これからが本当のはじまりなのか。
彼らの晴れやかな顔を見て、私にとっても、これからが、本当のはじまりなのかも知れない、と思った。
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 便座(2024.11.26)
- もう一人、懐かしい教え子について語ろうか(2024.11.17)
- 懐かしい教え子からのメール(2024.11.17)
- 散歩リハビリ・14年後(2024.10.21)
- ふたたびの相談(2024.09.29)
コメント