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お好み焼きを作ろう

2月2日(火)

こちらの大学院に通っているウさんは、私とほぼ同世代。そして彼の奥さんは、栄養士である。

日本の料理にも関心があるという。

韓国に来て間もないころだったであろうか。

「お好み焼きの作り方を知りたいんですけれど」と、ウさん夫妻に聞かれた。

「ええ、教えてさしあげますよ。よく作りますから」と私。

じゃあいちど、わが家で作ってみてください。かわりに、韓国料理をお教えしますから、ということになってしまった。「日韓料理対決をしましょう」

さて、困った。

本当のことをいうと、お好み焼きの作り方を、よく知らないのだ。これまではもっぱら、「お好み焼きの粉」を使って、お好み焼きを作っていたからである。

それにそもそも、お好み焼きに、それほど思い入れがあるわけではない。

子どものころ、「ザ・ベストテン」という番組で、ある有名なバンドの、ボーカルの人が、中継先で、たこ焼きを食べさせられていたのを見た。

司会者が、「たこ焼きは好きですか?」と聞くと、そのミュージシャンは、

「いえ、そんなに好きじゃありません。なんか、たこ焼きとか、お好み焼きとか、食べてもあまり意味がないような気がするんですよね」と答えた。

関西人を敵にまわすような答えだが、湘南あたりが出身のそのミュージシャンにしてみれば、粉食文化には、あまり思い入れがない、ということなのだろう。なぜかこのシーンをいまでも鮮明に覚えていた。

私は「意味がない」とまでは思わないが、そのミュージシャンの気持ちが、なんとなくわかるような気がしたのである。

では、なぜ「作れますよ」などと、嘘をついてしまったのか。

私は、昔からそういう癖があるのである。他人と話を合わせるために、とくにファンでない人を「私もファンなんですよ」と言ってみたり。おかげで、あとで話を合わせるのにえらい苦労する。

このときも、その場でつい「作れますよ」と、言ってしまったのだ。

その後もたびたび、ウさん夫妻から「お好み焼きはいつにしましょう」と聞かれるのだが、そのたびに、あれこれと理由をつけて、先延ばしにしてきた。「お好み焼きには、『おたふくソース』っていう、特別なソースが必要なんですよ。韓国では手に入らないと思いますよ」などと。

そしたら先日、ウさんが、「ついに手に入れました。おたふくソース!」というではないか。

もはや逃げられない。

しかも、帰国までは1カ月を切ってしまった。この1カ月以内に、お好み焼きを作らされることは、明白である。

「自分でまいた種なんだから、自分でなんとかしなさい。私は関係ないから」と妻。

そういう妻は、関西人である。私よりはるかに、お好み焼きに詳しいのだ。

だいぶ前、日本から韓国に遊びに来た友人に、お好み焼きの粉をはじめとする、お好み焼きセットをもってきてもらったので、「それで作ればいいじゃん」と言ったら、ダメだ、と妻がいう。結局、もってきてもらったお好み焼きの粉は、ぜんぶ自分で作って食べてしまった。

しかたがない。ようやく重い腰を上げて、お好み焼きを作る練習をすることにした。見かねた妻も、手伝ってくれることになった。

スーパーで、小麦粉、キャベツ、長芋、豚肉、卵などの材料を買う。最も基本的な、お好み焼きを作ることにする。

妻の母に聞いたところでは、2.2.6.と覚えればよいのだという。

小麦粉200cc、だし汁(水)200ccに対して、長芋6㎝をすりおろす、という割合。

この2.2.6の法則だけを頼りに、お好み焼きを作る。といっても、ほとんど妻に手伝ってもらったのだが。

ためしに、小麦粉400cc、水400cc、長芋12㎝で作ってみる。

この分量でいくと、4枚にわけて作るのがどうやらちょうどよいようだ。そのそれぞれに、卵を1つずつ入れるから、卵4つが必要だということになる。

さて、問題はソースである。

おたふくソースが手に入らなかったので、かわりに、スーパーでふつうに売っていた「トンカツソース」を買う。

ちなみに、韓国の人たちはトンカツが大好きである。ただ、ソースが日本と違って、ドロッとして、やや甘いのが特徴。

で、これをお好み焼きにかけてみたところ、これがけっこう合うのだ。

これなら、「おたふくソース」はなくてもいいな。せっかく苦労して手に入れたウさん夫妻には申し訳ないが。

試行錯誤のうえ、それなりのお好み焼きが完成したが、ひとつ問題が。

韓国には薄い豚バラというのがない。どれも、分厚い肉なのである。

しかたがないので、サムギョプサル(豚の三枚肉)を使ったが、どうもお好み焼きの雰囲気が出ない。それだけが残念である。

こんど、ウさん夫妻には、「韓国には豚バラ肉がないのでお好み焼きは無理です」とごねてみようか。さすがに「いいかげんにしろ!」と言われそうだな。

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