2本の手ぬぐい
2月20日(土)
いよいよ明日は、住んでいたワンルームをひきはらう日。
最後の1週間は、大学の寄宿舎で過ごす。
荷物を整理していると、丁寧に包装された手ぬぐい2本が出てきた。
一昨年の11月、私が韓国に来る直前に、「これからお世話になる人に渡すように」と、妻の提案で、デパートで、しゃれた日本手ぬぐいを10本ほど買い、きれいに包装してもらった。
韓国へ到着して、お世話になった人や、これからお世話になりそうな人に渡したのだが、10本のうちの2本が残り、いまのいままでそのままにしてあったのだ。
さて、この2本をどうしようか。せっかくだから、お世話になった人にさしあげることにしよう。
では、誰にするか。
個人的には、お世話になった語学院の先生にさしあげようか、とも思ったのだが、2本しかないので、誰にあげた、誰にあげないということになり、カドが立ってしまう。
「博物館の守衛のハラボジ(おじいさん)と、掃除のアジュモニ(おばさん)にあげたら?」と妻。
なるほど、それはいい。
研究室を借りている博物館は、夕方6時過ぎになると、建物に鍵がかかってしまう。夕方6時以降、翌朝まで、守衛のハラボジがひとりで、博物館を守っているのである。
また、土、日は博物館が休館のため、職員が出勤しない。やはり1日中、建物に鍵がかかり、守衛のハラボジがひとりいるだけである。
私は原稿にせっぱつまると、時間や休日に関係なく、研究室のある博物館にかけこんだ。そのたびに、守衛のハラボジは、面倒くさがらずに、快く鍵を開けてくれたのである。
私のさまざまな原稿がこれまでなんとか進んだのも、ひとえに守衛のハラボジのおかげである、といってよい。
守衛のハラボジは、サトゥリ(訛り)がきつくて、何を言っているのか、最初はよくわからなかった。
だが、コミュニケーションをとっていくうちに、しだいに言っていることがわかってくる。おそらく、私がいちばんコミュニケーションをとっていた韓国人は、この守衛のハラボジだったのかも知れない。
「これ、ソンムル(贈り物)です」と、手ぬぐいを渡すと、守衛のハラボジは照れくさそうに笑いながら、
「アンニョンヒカプシダ」(気をつけて帰ろう)
とおっしゃった。
そしてもうひとり、掃除のアジュンマ。
毎週月曜日の午後に研究室にやってきて、ひとしきり話して帰る、という話は、以前に書いた。
この方も、訛りがきつくて、話が聞き取りにくい。
あるとき、掃除のアジュンマが言った。
「私の話、面白くないでしょう」
「いえ、面白いですよ」と私。
「私、外国の人とこんな風に話すのはじめてなんですよ。いつも、研究室でおひとりでいるので、退屈だろうと思って、なんとか面白い話を用意してきているつもりなんですけど…外国の人にとって、こんな話が面白いかどうか…」
そうか、やはり、話すネタをあらかじめ用意しておられたんだな。私はそのとき、掃除のアジュンマの心遣いに心から感謝した。
帰国の荷造りに際しても、あちこちを駆けまわって、ダンボールを調達していただいた。
だから、お世話になったお礼の品をお渡しするのに、いちばんふさわしい人かも知れない。
来週の月曜日、最後の手ぬぐいをお渡しすることにしよう。
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