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ソルラル前日の晩餐

韓国で二度目のソルラル(旧正月)をむかえる。

2月12日(金)

以前から、大学内や学会などで、すれ違うたびに「今度、一度食事しましょう」と言ってくださる方がいた。私とほぼ同じ世代と思われる、女性の研究者の方である。

はて、どこかでお会いしたかな、と思うが、正確に思い出せない。いろいろ考えてみると、どうも1年ほど前に、一度、学会で名刺交換をした方のようである。私がいまお世話になっている大学で、所属は違うものの、同じ研究分野の研究者の方であることだけは、はっきりしていた。

で、その約束がのびのびになって、今日、実現することになった。

もうひとり、タプサ(踏査)のたびに「今度、マッコルリを一杯やりましょう」といってくれる男性の若い研究者の方もいた。その方と、その女性研究者の方と知り合いのようで、この機会に食事をご一緒にすることになった。それに加えて、タプサの時の「土器探し名人」の方(女性)。この方も、このおふたりと親しいらしい。

その3人のメンバーに、妻と私をくわえた5人で、食事に行くことにする。

私たちは、この3人の方と、これまでほとんど話らしい話をしたことがない。それに、この3人の方に関する情報が、ほとんどこちらにはないのである。はたして、どんな話をすればいいんだろう?場が持つだろうか?と、いささか心配になりながら、韓定食のお店に向かう。

韓国では、まず、しっかり食事をした後に、2次会で本格的にお酒を飲む、という慣習があるようだ。体にはいい慣習である。

韓定食をごちそうになったあと、マッコルリの店に行く。お話を聞いているうちに、いろいろなことがわかってきた。

まず、私と同世代と思われる女性研究者の方は、数年前、日本のある私立大学に1年間、交換研修で滞在されていたという。そのときにお世話になったのが、その大学で教授をされている、私の大学の先輩であった。その先輩と私とは、私がその先輩の結婚式で司会をするくらいの間柄であった。そのことを聞いていたその方は、私が韓国にいるあいだに一度食事をしたい、と思っておられたようなのである。

もうひとりの、男性の若い研究者の方は、中国に2年間留学した経験を持ち、さらに、今は日本語も勉強しておられる。日本のドラマなんか、私よりはるかに見ているんじゃないだろうか、というくらい、マニアである。

マッコルリの店では、もっぱらこのおふたりがお話しされた。おふたりとも留学経験があるだけに、話題は日本や中国との比較におよんだりして、話が面白い。

とくに、私と同世代と思われる女性研究者の方は、日本にいる間、先生や大学院生の方にとてもお世話になったことを、何度も懐かしげに語られた。「今月末も、日本に遊びに行くんですよ。お世話になったみなさんとも会いたいし」

そして今は、車の運転の練習をしているという。「いつか、日本でお世話になったみなさんが韓国にいらしたときに、私が車で案内できるように」

私たちを食事に誘っていただいたのも、そのときの日本での滞在が忘れがたいものであったことが、御縁になったのだろう。

私も日本に戻ったら、同じことをするようになるのだろうな、と想像した。

私たちの最初の心配は、杞憂に終わった。話に夢中になって、気がつくと深夜12時半をまわっており、6時間にわたる楽しい時間が終わった。

2月13日(土)

ソルラル前日。

午後、ソウルの博物館におつとめの研究官の方から、電話が来る。「ソルラルのために、故郷の大邱に戻ってきました。夜から高校の同窓会の約束があるんですが、その前に少し会いませんか?」

昨年のソルラル前日も、この方に1日おつきあいしていただいて、近郊を案内していただいた。今回はあまり時間がないようで、短い時間、お会いすることになった。

夕方5時に待ち合わせると、「食事に行きましょう」という。タクシーで、市内にあるかに料理の店へ。そこで、かにをたらふくごちそうになる。

しばらくするとその店に、その方の高校の同級生の方が2名ほどやってくる。もちろん、私たちは初対面なのだが、同窓生のおひとりは、私たちに、おみやげとしてお酒を持っていらした。縁もゆかりもない私たちに、高級酒を、である。

「ソルラルの前日は、いつも同窓会なんですか?」と私。

「そうです。だいたい、男たちは、ソルラルの前日の夜に集まって、外の店で同窓会をします。その間、妻は、家で次の日のソルラルの料理を準備したりするんです。だから、妻はいつもこれです」

そういうとその方は、人差し指を突き出した両手を頭の上にかざして、鬼の角のようなしぐさを見せた。

なるほど、韓国の奥さんは大変だな。夫は外で遊んでいるのに、自分は夫の実家で正月の準備をしなければならないなんて。その上、ソルラル当日も、1日中働かされるのだ。怒るのも当然である。

さらに同窓生もうひとりも合流。その方は弁護士で、同窓生の集まりは、その弁護士の方の事務所でおこなわれるという。「同窓生の集まりは、弁護士がいる場合は弁護士事務所、医者がいる場合は病院でおこなわれることが多いんですよ」なるほど、弁護士と医者の、社会的地位をあらわすような話である。

同窓会のじゃまをしては申し訳ないと思い、早々に引き上げることにする。

帰りのタクシーのなかで、ふと考える。そういえば、この研究官の方も、日本に1年滞在された経験を持つ。やはり、日本でのよい思い出のおかげで、私たちはかにをごちそうになれたのではないだろうか、と。

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