漫画リハビリ
「『真っ白な灰』事件」のショックから、「そうだ、久しぶりに漫画を読もう」と思い立つ。
私は漫画をほとんど読まない。
だが、子どものころ、漫画家に憧れたことがある。
小学校5年生のころだったか。
当時『週刊少年ジャンプ』を発刊していた集英社が、「手塚賞」「赤塚賞」という、10代の新人漫画家を発掘する新人賞を主催していた。手塚賞は、少年向けのストーリー漫画、赤塚賞は、少年向けのギャグ漫画というように、ジャンルわけされていた。
小学校5年の私は、友だちと二人で、無謀にもこの賞に応募することにした。いや、正確にいえば、漫画好きの友だちに誘われて、応募させられる羽目になったのである。
松本零士の「戦記もの」に傾倒していたその友だちは、戦記ものの漫画を描いて手塚賞に応募した。応募を考えるくらいだから、絵はけっこう上手かった。
それにつきあわされる私は、仕方なく、手塚賞ではなく、赤塚賞に応募することにした。どんな内容のものを描いたか、ほとんど覚えていないが、たしか、顔が「釜飯の釜」の形をしているおじさんが主人公の、ギャグ漫画だったと記憶する。「釜飯おじさん」である。
むろん、そんな漫画が入選するはずもなく、漫画家の夢は潰えてしまった。
このあと、中学生になって、ミュージシャンになろうと、今度は音楽好きの友だちと、坂本龍一にデモテープを送ったのだが、これもなしのつぶてだった。これはまた、別の話。
まあそんなことはよい。
最近、どうしても読みたい漫画があった。
現在、『漫画アクション』に連載中のこの漫画。ドストエフスキーの『罪と罰』を、設定を現代の日本に置き換えた、いわゆる翻案もの。
なぜこの漫画を読もうと思ったか。
それは、作者が、私の高校時代の部活の1年上の先輩だからである。
落合先輩は、ブラバンで、トランペットを吹いていた。
個人的に、あまり話したことはないが、独特の感性を持った人で、面白い人だな、思っていた。
高校卒業後、大学に入り、漫画家をめざしている、と聞いた。いやすでにもう、漫画家になっていたのかも知れない。
でも、実際に、どの雑誌に漫画が載っているのか、よくわからなかった。
高校卒業後はまったくお会いしていない。ただ、あれは、大学時代だったか。OBとして、後輩がやっている定期演奏会を聞きに行ったときに、一度だけ演奏会場でお会いしたことがある。
そのとき、聞いてみた。「いま、漫画は描いているんですか?」
すると先輩は、
「充電中」
とだけ答えた。
(なんだよ、いきなり充電中かよ!)と、そのとき強く思ったことを覚えている。
最近、その先輩のことを思い出し、(いまも漫画を描いているのだろうか…)と思って調べてみると、『罪と罰』という漫画を連載していることを知る。
しかもそれが、いま大変な評判になっている、というではないか。
ラジオで伊集院光氏が絶賛していた、とも聞いた。
帰国後、最初に読む漫画はこれにしよう、と決め、本屋に向かう。
東北の地方都市の本屋にもかかわらず、なんと平積みになっているではないか。
ちょっと感動ものである。
どちらかといえばマイナーで、寡作という評判の先輩が、いよいよブレイクしたか!
さっそく、これまで出ている巻を読み始める。
一気に読んでしまった。面白い!
こりゃ、絶対、いずれドラマ化か映画化されるだろうな。
それにしても、申し訳ない。
おそらくは、入念な準備と相当な手間をかけて描かれた漫画を、一晩で読み流してしまうのだから。
一コマ一コマに込められた思いが、一瞬のうちに過ぎ去ってゆく。
漫画家とは、なんと、割に合わない商売なのだろう。
オリンピック選手が頑張っているのを見て、「私も頑張ろう」とは思わないが、高校の時に、多少なりとも話したことのある先輩が、いい作品を描いているのをみると、「私もいい仕事をしよう」という気に、ちょっとなるね。
それと、小学校の時、「釜飯おじさん」なる漫画を描いて漫画家をめざそうとした軽率な行為を、お許しください。漫画家なんて、そんな軽はずみになれるものじゃないんですよね。
ああ、第8巻が待ち遠しい。
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