ベルナール・ベルベール
3月20日(土)
次の日記はソウルから帰ってから書こうと思っていたが、忘れないうちに書きとめておく。
今ではすっかり誰も読まなくなった韓国語日記だが、私がまだ韓国にいた1月末ごろ、韓国語日記を熱心に読んでいた、4級の時のマラギ(会話表現)の先生(「よくモノをなくす先生」)が、私の韓国語日記を読んで、次のようにおっしゃっていた。
「ベルナール・ベルベールの小説みたいですね」
「誰です?その人は」と私。
「知りませんか?フランスの作家ですよ。韓国ではとても有名です」
その先生は、かつて私が書いた「アイスアメリカーノ・妄想篇」「汗かきのメカニズム・妄想篇」を読んで、そう思われたらしい。
「ベルナール・ベルベールの作品に『木』という短編小説集があって、その中に、皮膚が透明で、内臓が透けて見える人の話があるんです。『妄想三部作』を読んで、それを思い出しました」と先生。
その後、もう一度、その先生の口から「ベルナール・ベルベール」の名前が出た。帰国直前に、語学院の先生方数人と、食事に行ったときである。
私の韓国語日記のことが話題に出て、そこで再び、その先生は「ベルナール・ベルベール」の話題を出した。
「キョスニムの韓国語日記、ベルナール・ベルベールの小説っぽいでしょう」と、その先生が、他の先生に確認する。
そこで、他の先生が同意したのかどうかは定かではないが、「ベルナール・ベルベール」の小説じたいは読んでいたらしく、そうとう有名な作家なんだな、と、その時思った。
そこまで言われると、どんな小説を書いている作家なのか、気になる、というものである。さっそく、書店に行って探すことにする。
すると、書店の一角に、「ベルナール・ベルベール」の本のコーナーがあって、本が平積みになっている。
相当な人気なんだな。
薦められるがままに本を買ってしまう、という私の悪い癖に、妻が呆れる。
「やめておいた方がいいと思うけど」
「どうして?」
「だって、ベルナール・ベルベールなんて、聞いたこともない作家だし、韓国でだけ売れてるフランス人作家なんて、明らかに胡散臭いよ」
たしかにそうだ。「ベルナール・ベルベール」という作家は、日本では聞いたこともない。それに「ベルベール」という名前が、青空球児好児の「ゲロゲーロ」となんとなく響きが似ていて、つい力が抜けてしまう。ま、それは関係ないことだが。
最後の食事会の時の話で、ベルナール・ベルベールの小説の中には、韓国人が登場する話があると、ある先生がおっしゃっていた。とすればこの作家は、明らかに韓国の市場に迎合しているのではないだろうか。たとえて言えば、日本の市場向けに作られたハリウッド映画の中に、日本の俳優が登場するように。
「それに、透明な皮膚の人の話なんて、どう考えても(私の)日記の作風とは違うと思うよ。先生は、日記をかなり誤解して読んでいるのかも」
それもそうだ。どこをどう読めば、透明な皮膚の人の話が、私の日記の作風とかかわるのかも、よくわからない。「人造人間キカイダー」じゃないんだから。
でも、これもなにかの縁だと思って、『木』という本を買うことにする。しかし、すぐには読む気にならず、ダンボールの奥底にしまって、帰国前に、日本に郵送してしまった。
帰国後も、この「ベルナール・ベルベール」のことがずっと気になっていた。
そして今日、フランスに長期留学経験のある2人の同僚と一緒に昼食に行く機会があったので、思い切って、「ベルナール・ベルベール」のことを聞くことにした。
でもなあ。
「『真っ白な灰』事件」の後遺症を引きずっている私は、「そんなことも知らないの?」とまた言われそうで、一瞬、聞くのがためらわれた。
だが、思い切って聞いてみると、やはり2人は「知らない」という。
昼食から戻った直後、好奇心が旺盛な同僚のAさんは、やはり気になったらしく、「ベルナール・ベルベール」の公式ホームページ(もちろんフランス語)があることを突きとめ、メールで知らせてくれた。
さっそくそれを見ると、予想どおり、ちょっと「アレ」な感じのする作家である。3人の意見は一致した。
となると、私の韓国語日記がベルナール・ベルベールの作風と似ている、と韓国語の先生に指摘された私は一体…?
不安になり、ダンボールに入ったままの『木』を取り出し、とりあえず「透明皮膚」という短編小説だけを、流し読みすることにした。
結論。私の韓国語日記と、ベルナール・ベルベールの作風とは、全然違う!
で、次に問題になるのは、なぜ、ベルナール・ベルベールが、日本では全く知られていないのに、韓国でこんなにもウケているのか?ということである。
これは、別の意味で面白いテーマだな。
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