誤作動の理由
朝、私が住んでいるアパートの外で、ピーピーピーピーと、警報機の大きな音がした。
朝からうるさいなあ。何だろう、と思っていると、消防車のサイレンが近づき、やがて私のアパートの前でとまった。
どうやら、うちのアパートの火災警報機が鳴ったらしい。
「今月で2回目かよ…」
そういえば先週も、やはり朝にアパートの外の火災警報機が鳴って、消防車が来ていた。そのときは、誤作動とやらで、原因が分からないまま、消防車は帰っていった。
今度もまた、誤作動かもしれない。やれやれ、と思いながら表に出ると、消防車が一台とまっていて、消防署員の方が建物の周りを調べている。
近所の人たちも、何事が起こったのか、という感じでアパートの近くに集まってきている。
やがて、パトカーも1台やってきて、警察官も2名待機した。
さらには、なぜか、テレビカメラを持ったテレビ局のカメラマンも1人いて、うちのアパートを撮影している。たまたまそこに居合わせたのか、あるいは、消防車に同行して取材していたのか、わからない。
見たところ、別に、建物から炎や煙が出ているわけではない。ニュース映像にもならないことは、明白である。先週と同じ、誤作動であることは、容易に想像できた。
それにしても、警察官やテレビカメラマンまで来るとは、おおごとになってしまったものだ。
「どうしたんです?」私は消防員の方に聞いた。
「火災警報機が鳴っている、と通報がありましてね。…お宅は、大丈夫ですか?」
「ええ」
「通報されたのはどなたですか?」
「私です」
表に出ていた、隣の部屋の奥さんが答えた。
「たしか、先週も火災警報機が鳴りましたよね」
「そうなんです。で、今日も鳴ったので、おかしいな、と思って通報しました」
「でも、火災の様子は確認できませんね」
消防員の方が不審がる。
「念のため、連絡先をうかがってもよろしいですか?」
消防員の方が、第1通報者の奥さんに尋ねる。
「お名前は?」「電話番号は?」「年齢は?」「お勤めは?」
名前と電話番号まではまあよい。だがなにも年齢や職業までたずねることはないだろう、と思いながら、いったん自分の部屋に入り、仕事に行く仕度をして、再び部屋を出た。
勤務先へ行く道すがら、思い当たることが…。
私は、朝、風呂に入ることにしている。私の部屋の風呂は、お湯が出る水道の蛇口をひねって、お湯を入れる、という実に単純な仕組みである。
しかし、細かな温度調節ができない。出てくるお湯がとても熱いため、いったんお湯を出した後、今度は水を出して温度を調節しなければならない。
で、今日、お湯を出しているとき、たしか風呂場の扉を開けっ放しにしていたな。
そこで、7年ほど前に入居したときに、ガス会社の人から言われたことを思い出した。
「天井に火災探知機がついています。煙に反応しますが、お湯の湯気にも反応しますので、たとえば、横のお風呂場の扉を開けたままお湯を使ったりしますと、その湯気に反応して、警報機が鳴る場合がありますから、注意してください」
アパートの外の警報機が鳴った時間、ちょうど、お風呂にお湯を入れていたような…。
まさか、…まさか、ね。
そんなに湯気も出てなかったし。
断じて私のせいではないが、第1通報者だった隣の奥さんが、消防員の人に疑いの目で見られていたのは、ちょっと気の毒だったな。
そして、断じて私のせいではないが、今度からは、いちおう風呂場の扉を閉めて、お湯を入れることにしよう。
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