ぜいたくな一日
5月22日(土)
同僚に誘われて、近郊の町で行われる年に一度のお祭りを見に行くことになった。
正午、職場で同僚や学生数人と待ち合わせる。同僚が私を見るなり、一瞬驚いた様子を見せたあと、爆笑した。
「いったいどうしたんです?」
家から職場まで歩いてきた私は、ビックリするくらいの量の汗をかいていた。そのことに同僚は驚いたのである。
「走ってきたんですか?」
「いえ、家から歩いてきたんです」と私。
「水をかぶったみたいになってますよ」同僚が再び爆笑する。
ふだん、それほどお話する機会のないその同僚は、私のことをあまりご存じないらしい。
私は日常生活でよく、「どこの池に落ちたんですか?」「どこの滝に打たれたんですか?」というくらいの汗をふつうにかくのである。
もう、そんな季節になったんだなあ、と実感。
「ふつうのことなので、どうかご心配なく」と私。
同僚は、首をかしげつつ、笑いが止まらない様子だった。
さて、2台の車に分乗して、1時間ほどかかって、近郊の町に到着。私にとっては、数年ぶりの訪問である。
3時にお祭りが始まる前に、まずは町歩き。
もともと、その町をフィールドワークするのが、その同僚のいまのテーマの一つでもあり、授業でも実践されているのだという。
私も、町歩きはかなり好きである。とくに、サビレた感じの雰囲気をかもし出しているこの町の町並みは、歩いていてぜんぜん飽きない。
専門家の説明を聞きながら歩くというのもぜいたくな話である。
1時間ほど、ゆったりした町歩きをしたあと、いよいよお祭りの会場に向かう。
市内の各地区で行われる、獅子舞のお祭りを一カ所に集めておこなうというもの。
もともとは、各地区ごとにバラバラにおこなっていた祭礼を、町の中心にある公園で一堂に会して行うことによって、町のイベントにしたのだという。
この地域独特の獅子がしらを用いた、荒々しい獅子舞がくりひろげられる。
荒々しく動きまわる獅子のそばには、長い棒を持った男が立っている。
「あれは警護といって、獅子が客席に突進するのを体を張って止める役割の人です」と同僚が説明した。
「前日までに、その地区の男たちが相撲をとって、最終的に勝った者が警護になれるんだそうです」
なるほど、見るとたしかに屈強な人が警護になっているな。
しかし、2番目の地区の警護は、ちょっとお年を召した方のようである。
若者が減っているんだろうな、ということを実感する。
初夏のような日差しに、1時間も見ているとクラクラしてきた。
「そろそろ帰りましょう」と同僚。車を止めてある場所まで戻る。
途中、「貸間あり」という看板を発見。いまでも、こんな看板が残っているのかぁ、と感激し、写真を撮っていると、
「意外ですねえ」と同僚。そういうところに目を向けている、というところが、意外だったらしい。
「けっこう、町を歩いてヘンな写真を撮るのが好きなんです」と私。
やはり、私のことをあまりご存じないらしい。
夕方5時過ぎ、職場に戻り解散。充実した機会を与えてくれた同僚に感謝した。
午後7時、今度は東京から来た同業者のTさんと駅前の「いつも行く店」でお酒を飲む。
この日たまたま、うちの職場で会議があり、東京からわざわざその会議に参加したTさんが、「せっかくそちらにうかがうので、夜、一緒に飲みましょう」と連絡があった。
はじめて会ったのが15年ほど前。つぎつぎと刺激的な成果をあげる彼は、愚鈍な私にとって、ひそかな尊敬の対象であった。Tさんとサシで飲むのは、たぶんこれがはじめてである。
座持ちが悪い私にとって、話題がもつだろうか心配だったが、その心配は杞憂だった。あいかわらず学問に対する熱い思いを持っているTさんの話を聞きながら、元気をもらう。まだまだ、この分野でやっていけそうだな、と少し前向きな気持ちになった。おいしい日本酒と料理が、それを後押ししたのかもしれない。
「おもしろいこと、一緒にやっていきましょう」
3時間があっという間にすぎ、夜10時すぎ、お別れする。
ちょうど今週末は学会である。今ごろ東京では同業者たちが、現実の生活や社会とは無縁の議論を延々とくりひろげていることだろう。
私はそれに背を向けて、昼は地元のお祭りを見て、夜は志を同じくする仲間とおいしいお酒と料理に舌鼓を打ちながら、未来を語り合う。
なんとぜいたくな1日ではないか。
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