欠席の宴(うたげ)
5月29日(土)
ひと月ほど前、学生時代にお世話になった数年上の先輩から、数年ぶりに電話があった。
私たちの仲間が学生時代にお世話になっていた先生が、この3月で大学を退任されたので、久しぶりに、そのときの仲間で集まって、その先生のお祝いの会をすることになった。ついては、同期の仲間に声をかけて、参加を呼びかけてくれないか、と。もちろん、私にも参加をしないか、と誘われたのである。
「わかりました。でも、いいんですかね?僕なんかが参加しても…」
「え?どうして?いいじゃないの」
私は逡巡した。
電話をくれた先輩は、私が大好きな先輩であったので、久しぶりにお会いしたいなあ、という気持ちはあった。しかしそれとは別に、ひとつ大きな問題があった。
それは、そのお世話になった先生と私が、学説上の対立から、数年前に決別した、という事実である。
この出来事は、いまも私の心の中に、深く突き刺さっているトゲである。今でも私は、いろいろな意味で自分は間違っていなかった、と思っている。その一件以降、「もう、この先生とはお会いすることはないだろうなあ」と、思うことにした。
この一件については、その先輩もご存じのはずであった。いや、ほかの仲間たちの中にも、知っている人は多いはずだ。
その先輩は、数年前の一件は、あまり気にすることではないんじゃないの?というニュアンスで、「大丈夫でしょう」とおっしゃる。
まあ、考えてみます、といって、お茶を濁して電話を切った。
翌日から、同期の仲間に久しぶりにメールで連絡をとる。といっても、つきあいの悪い私は、同期の仲間の連絡先をほとんど知らなかった。そこで、顔の広い同期の友人に頼んで、連絡をつけてもらうことにした。すると、数名がその会に参加する、ということになった。
数日前。
「ところで、お前はどうするの?」
その、顔の広い友人が私にメールで聞いてきた。私は、
「実はこの日、用事があって参加できない」
と返事を書いた。
私は学生時代から、同期の中でもとりわけ「つきあいの悪い」人間として、通っていた。同期の仲間たちは、私を除いて結束がかたかった。おそらく今回も「なんだよ、あいかわらずつきあいが悪い奴だな」と私のことを思ったに違いない。
しかしそれは仕方のないことであった。私が参加したところで、私自身が全く楽しめないことは明らかであったからである。久しぶりに会いたい人たちと再会するにしては、代償が大きすぎるのである。
そして、会の当日の5月29日(土)。
深夜、携帯電話の着信履歴を見ると、私に最初に電話をくれた先輩から、夜10時すぎに電話あったようだ。
おそらく、飲み会で盛り上がって、飲んでいる席から私に電話をくれたのであろう。
もし、そのとき電話をとっていたら、次々とその場にいた人とかわるがわる会話をしなければならないことは、容易に想像できた。
酒の席で、主賓の先生も、仲間たちも、その場にいない私の悪口を言っているかと思うと、ぞっとして、とても平静を装って、会話なんかできる状況にはなかっただろう。
翌日。
昨晩、電話をくれた先輩にだけは申し訳なかったと思い、携帯メールでお詫びのメッセージを入れた。昨日は電話に出られなくてすいませんでした、また機会をあらためてお会いしましょう、という内容である。
その中で、
「きっと私の悪口(?)で盛り上がったことでしょう(笑)」
と、冗談まじりで書いてみた。すると、ほどなくしてその先輩から送られてきた返事に、こうあった。
「せっかく電話したのに~(涙)。夕べは、くしゃみ出まくりでした?」
ああ、やっぱり私の悪口で盛り上がっていたんだな。
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