続・文化の違いか?
書くタイミングを逸してしまったが、7月5日(月)、妻は、韓国で行われた例の国際シンポジウムから、無事戻ってきた。
携帯電話がつながらない、というトラブルがあったものの、シンポジウムにも問題なく参加し、語学院でお世話になった先生とも無事、再会を果たしたという。
今回は発表者としてではなく、発表の先生の同伴者として参加したため、精神的に余裕を持って、まわりを観察することができたらしい。
帰国2日後の深夜、スカイプで2時間ほど、その「みやげ話」を聞いたが、「国際シンポジウム」のドタバタぶりは、まるでラジオの深夜放送のカリスマDJのフリートークを聞いているがごとく、抱腹絶倒だった。
私自身が、登場人物のキャラクターをよく知っていたので、その顔を思い浮かべながら聞いていて、なおさら面白かったのかも知れない。
だが残念ながら、とてもこの場で書ける内容ではない。
ひとつだけ、書いておく。
国際シンポジウムで、通訳はとても大事である。
通訳は、語学ができれば誰でもできる、というわけではない。
それが専門の研究分野に関する通訳、となるとなおさらである。
私たちが当日の発表者として推薦した日本人の研究者の方は、その分野で最先端の研究を行っている先生である。有能な先生だからこそ、発表者として推薦したのだった。
当日、その先生と妻は、発表や討論の時に通訳をしてくださる、という方にお会いした。やや年輩の女性の方だった。
「Wさんに頼まれて、通訳を引き受けることになりました」という。「Wさん」とは、私と妻が留学中にお世話になった韓国人である。Wさんは日本に長く留学した経験があるので、日本語がペラペラであった。今回通訳を担当するその年輩の女性の方は、Wさんと同じ大学に留学していた先輩にあたるという。つまり、「日本に留学経験があって、日本語ができる」という理由で、Wさんから、通訳を依頼されたのだ、というのである(Wさんは、当日、他の日本人の先生の通訳にかり出されていた)。
学生時代、日本に留学した経験がある、とその方はおっしゃったが、学生時代、というくらいだから、留学したのはかなり昔のことのようである。
その上、聞いてみると、どうも研究者の方ではない。ソウルのお寺にお勤めの方だという。
妻はその時、不安を覚えた、という。
そしてその不安は的中した。
その研究者の先生の発表は、最先端の研究分野の話である。内容もかなり込み入っている。専門に研究している人間ですら、通訳するのが難しいだろうと想像する。
それを、十数年前に日本に留学した経験があるという、専門外の方が、通訳できるはずがない。しかもその方は、通訳の経験がほとんどない、というのだ。
私には、当日の発表の様子や、発表のあとの討論の様子が、十分に想像できた。
妻によれば、その通訳の方は、途中ですっかりサジを投げてしまったという。
たとえるなら、セコンドからタオルを投げられて「ギブギブギブ!無理無理無理!」といったところか。
それにしても、よりによって、なんでそのような方に、通訳を依頼してしまったのだろう。引き受けたその方も、気の毒である。
いっそのこと、妻に通訳をまかせた方がよかったんじゃないの?
ここで教訓。
その国際シンポジウムが「本気」であるかどうかは、通訳の質でわかる。しっかりした通訳に依頼していれば、それは国際シンポジウムに本気でとりくんでいる、ということを意味する。もしそうでなければ、たんなる儀礼ととらえるべきである。
これからは、これを基準に、国際シンポジウムをウォッチングしていくことにしよう。
さて、その通訳の方に関する話はここで終わらない。
結局、通訳としてほとんどアレな感じなその方だったが、
「ひとつ、お願いがあります」
と、シンポジウムが終わってから、妻にお願いをしてきた。
「何でしょう?」
「日本には、とても品質のよい獣毛の歯ブラシと、さかむけを治す薬があると聞いています。実は私がつとめているお寺の老住職が、歯ぐきと肌が弱くて、ぜひとも日本の獣毛の歯ブラシとさかむけを治す塗り薬をと、所望しておられるのです。日本にお戻りになったら、それを買って送っていただけないでしょうか」
獣毛の歯ブラシ?さかむけの薬?
キョトンとした妻をよそに、その通訳の方は、妻に10万ウォン(約1万円)を渡した。
お金を受け取っちゃったからには、その依頼に応えなくてはならない。
日本に戻った妻は、獣毛の歯ブラシと小林製薬のサカムケア(逆剥け用の水絆創膏)を購入して、韓国に送る羽目になってしまった。
「なぜ面識もない歯茎の弱い坊さんのために、こうして煩わされるのか?」とは妻の弁。
やはりこれも、文化の違いか?
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コメント
なんか前にも洗濯屋さんだったかに人捜しを頼まれて探偵ごっこしたのと似た展開ですね。やはり「断る力」よりも「断らない力」の方が大切。
ところで、「サカムケア」のネーミングに惹かれてググったら、小林製薬のホームページのなんと充実していること! アッチQQ、天使のミミクリン、シャツクール。駄洒落っぷりがたまりません。小林ヒストリーもおすすめ。
投稿: こぶぎ | 2010年7月15日 (木) 00時33分
その通り!最初はこの記事に「名探偵」という言葉が入ったタイトルをつけて、シリーズ化しようと思ったんですが、やっぱりやめて、例の国際シンポの続編、と位置づけることにしたのです。いちおう、こんなしょーもないブログでも、構成や表現はいろいろと考えてます(笑)。
ところで人捜しを依頼されたのは、洗濯屋さんではなく、焼き肉屋のアジョッシです。洗濯屋さんの話も書いたことがありますが、同時に肉屋を経営していることの謎を解き明かす、という別の記事でした。ちなみに妻はいま、研修という名目で韓国から日本に来ているアジョッシ(大学の先生らしいが)に依頼されて、「日韓の海底ケーブルの歴史」について調べているそうです。おかげで海底ケーブルについてやたら詳しくなったとか。
小林ヒストリー、いいですね。私も優良企業からこんな仕事を依頼されたら、社史をドラマチックに書く自信があるんだけどなあ。そんな仕事、ないですかね。
なんか、このブログのディープな読者はこぶぎさんしかいなくなってしまったような感じです(笑)。
投稿: onigawaragonzou | 2010年7月15日 (木) 23時49分