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携帯電話の逆襲

6月30日(水)

妻が韓国へ出発した。行く先は、自分が留学していた思い出の大学である。

例の、国際シンポジウムで研究発表される先生のお供するためである。

直前まで、国際シンポジウムの企画者の先生(韓国人)との間で、細かなトラブルが続いたらしい。

それに通常の仕事のストレスも加わり、出発直前、妻は軽い胃炎にかかった。

さらに出発前日の夜になって、韓国のガイドブックを職場に置いてきてしまったことに気づき、翌朝空港でガイドブックをあらためて買わなければならなくなった、という。

なんとも波乱な旅の幕開けである。

そして、そんなドタバタな感じで果たして大丈夫だろうか…という不安は的中する。

この日の夜、メールを確認すると、妻から韓国語のメールが届いていた。タイトルは、

「パボカッタヨ T T」

直訳すると、「バカみたい」という意味。

韓国の国内で契約していた携帯電話が、使えなかった、という内容だった。

これには少し、説明が必要である。

韓国で携帯電話を持たないと生きていけないことは、この日記でもしばしば書いてきた。

ところが、外国人が韓国人と同様に、携帯電話を契約することは、かなり難しい、といわれる。

私は、韓国滞在中、プリペイド式の携帯電話を使っていた。当然、日本に帰国してからは、使用できなくなった。

一方妻は、プリペイド式ではなく、毎月の基本料金と通話料を支払う形の、通常の携帯電話を契約した。この場合だと、基本料金と通話料を、銀行などを通じて払い込む必要がある。

妻がプリペイド式にしなかったのには、理由がある。それは、日本に帰国してからも、韓国で使っていた携帯電話が、韓国にいくたびに使用できるようにするためである。プリペイド式だと、たとえ残金があったとしても、3ヶ月以上使用しなければ使用できなくなってしまう。それに対して通常の契約の場合は、基本料金を払い続けている限りは、日本に戻ったとしても、韓国国内用の携帯電話がいつでも使用できるはずである。一見して、普段ほとんど使用しない携帯電話の基本料金を払い続けるのは無駄なようにも思えるが、韓国の携帯電話の基本料金と通話料が日本よりもはるかに安いことを考えれば、たまに韓国に行く、という場合でも、決して無駄な話ではないのである。

ただしそのためには、帰国する前に、銀行口座から基本料金を毎月自動的に引き落とすように手続きをとらなければならない。いちいち韓国の銀行の窓口に行くことはできないからである。

だが、この口座引き落としの手続きが、実はかなり面倒であった。

外国人である、と理由からか、銀行に行ってもなかなか口座からの引き落としが認められない。何度か交渉したあげく、帰国のぎりぎりになって、ようやく口座からの引き落としが実現した。

よかったよかった。これで、私と妻、どちらか一方が韓国に出張した際にも、この携帯電話が1台あれば、安い通話料で電話をかけることができる。

…だが、その見通しは、甘かったのである。

妻によれば、韓国に入国し、その、しばらく使っていなかった携帯電話の電源を入れても、まったく通話ができない、というのだ。

おかしいと思って携帯電話会社に聞いてみると、確かに基本料は毎月引き落とされてはいるが、長期間使用していないため、いったん中止されているのだという。

「じゃあどうすれば使えるようになるんですか?」

と聞いたところ、

「外国人登録番号を教えてください」

という。

さあ、困った。外国人登録証は、韓国から帰国するときに空港で回収されてしまったので、手元にはない。そのとき、番号を控えてはいたのだが、まさかこんな時に必要だとは思わず、控えたものは職場に置いてきてしまった。

もはや打つ手なし、である。

再三書いているように、携帯電話がなければ、韓国では生きていけない。それに加えて、今回は偉い先生のお供、ということでついてきているのだ。「韓国のことはお任せください。すべてご案内しますから」と、意気揚々と入国したはずである。その矢先、頼みの携帯電話がまったく使えないとは…。発表者の先生も、「こいつ、何のためについてきたんだよ。使えないな…」と思っているかもしれない(もちろん、そんなことを思われるような先生ではないのだが)。

それに、この期間中、妻は語学院でお世話になった先生とも再会することになっていた。どこで何時に会うか、という具体的な約束も、できなくなってしまったのである。

まったく、いったい何のために、あんなに苦労して、口座引き落としの手続きをとったのか。それで使えなければ、まったく意味がないではないか。

たぶん、そんなさまざまな思いが交錯したのだろう。妻は私にじつに不安げなメールをよこしたのである。

しかしなぜ、それを韓国語で?

それも理由は簡単。ホテルにあったパソコンからは、日本語のメールが打てなかったからであろう。

ここまで考えて、あのときの記憶が、まざまざとよみがえってきた。

私が韓国滞在中、携帯電話をなくしたことがあった。大事な学会発表のため、未知の土地、群山というところに向かっていたときのことである。あのときは、頭の中が真っ白になった。これで、学会の関係者の方と連絡がつかなかったら、打ち合わせはもちろん、前泊するホテルの場所もわからないな、と考えると、ああ、なにもかも終わった、と、絶望的な気持ちになった。

幸い、群山で学会の関係者の人と会うことができ、ホテルに無事着いたが、誰とも連絡が取れないことへの不安が急速に大きくなり、夜、、ホテルの部屋にあるパソコンから、妻に韓国語でメールを出した。日本語が打てなかったので、韓国語でメールを送ったのである。

だが、妻がそのメールを確認することはなかった。いや、正確に言えば、翌日の学会が無事終わり、私が家に戻る直前に、ようやく確認したのだという。

私の不安な気持ちなど、まったく意に介していなかったのだ。

だがいまは、あのときの私の気持ちと同じなのだろう。

私は韓国語で、妻に返事を書いた。

「私が韓国滞在中に携帯電話をなくした時の気持ちが、わかっただろう?」

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