大雨のソウルより3 国際学術会議
8月26日(木)
午前10時半、いよいよ国際学術会議がはじまる。
国際、といっても、参加国は韓国と中国と日本。それに聴衆は、毎度のことながら、関係者以外、ほとんどいない。
5時過ぎに1日目の日程が終了。大雨の中、夕食会場に向かう。
例によって、2次会と続くが、10時過ぎ、ようやく解放される。
ホテルに戻り、午前2時頃まで、明日の発表のための韓国語原稿を仕上げる。
8月27日(金)
午前9時半、2日目の日程が始まる。
私の発表は3本目。何とか時間通りに読み上げ、そのあとの個別の討論も、韓国語で乗りきった。
これでお役御免か、というと、そうではない。午後の2本の研究発表をはさんで、最後に「総合討論」のパネラーとしてふたたび壇上にあがらなければならない。
この討論、というのが、たまらなくイヤである。
発表じたいは、極端にいえば、原稿を読み上げればいいのだから、それほど問題はない。だが、討論は、どんな質問が来るかわからない。つまり、どこから矢が飛んでくるかわからないのである。それに対してその場で韓国語で答えなければならないのだ。
午前中の個別の討論の際にも、あらかじめ用意されている以外の質問も出されたりして、かなりあせった。
もうひとつ、プレッシャーのかかることがあった。
それは、総合討論の司会者が、留学先の大学で私が一番お世話になった教授である、ということである。
ご自身の体験から、私に「語学の勉強は、半年ではなく1年続けなさい」とおっしゃって、入国2日後から大学の語学院に私を連れて行っていただいた先生。
その先生と、偶然にも、同じ壇上にならぶのである。
その先生の前で、下手なことをすれば、私がその先生の顔に泥を塗ることになる。
それに、先生の教えを守って1年間韓国語の勉強を続けることができたことに対して、少しでも恩返しがしたい。これは本音であった。
総合討論がはじまり、何度か司会者の先生が、私に質問をふった。私も必死に韓国語で答えた。伝わったのかどうかはわからないけれど。
2時間にわたる総合討論が終了。
最後に、司会の先生が、壇上にいる一人ひとりを、ねぎらいの意味をこめて、あらためて紹介した。
私の番のとき、先生がおっしゃる。
「ミソンセン(これは司会者の先生が、私につけた呼び名である。ソンセン=先生の意)は、昨年1年間、韓国で韓国語を勉強して、今回、韓国語による発表の公式デビューでした。発表だけでなく、討論も韓国語でなされました。どうかみなさん拍手を!」
会場から拍手をいただく。
最後に先生はつけ加えた。
「実は、私の大学で勉強していたんですよ」
そのお言葉が、すこし誇らしげに聞こえたのは、私だけかもしれない。
そしてこの言葉を聞いた瞬間、いままでの緊張がいっきにとけて、涙がこみあげてきた。
疲れていたせいかもしれない。
これで恩返しができた、と思ったからかもしれない。
いずれにしても、私にとって、これ以上望むべきものは、何もなかった。けっして盛会とはいえない学術会議だったけれど、聞いてもらうべき人たちに聞いてもらえたのだ、と思う。
午後7時頃から、会食がはじまる。マッコルリをしこたま飲む。2日間のシンポジウムが終わって気がゆるんだのか、撃沈した人たちもいた。1年の勉強で学会発表と討論を韓国語でしたことに対して、いろいろな人たちから過分のお褒めもいただいた。
ところが、話はここで終わらない。
2次会でのこと。
私より10歳ほど上の、ある先生から懇々とお説教される。
簡単に言えば、
「韓国語で上手に発表しましたねと褒められたからといって、いい気になっているんじゃねえよ!そんなこと、何の意味もない。何のために韓国語を勉強してきたんだ?韓国人と議論をするためだろ?それなのに、あの逃げ腰の発表は何だ!」
こんな書き方をすると、酒によってくだを巻いているようにも聞こえるが、もちろん、こんな下品な言い回しはしていないし、その方は、悪酔いしていたわけでもない。もっと紳士的におっしゃったのだが、内容は、こんな感じである。
ふだんなら、「おまえに言われたくないよ!」と思いたいところなのだが、おっしゃった方が、秀才だなあと日ごろから敬意を表していた先生だけに、その分、ショックを受ける。
奈落の底に突き落とされた感じだ。
そうか、オレが韓国語を勉強したことはまったく意味がなかったんだな、という思いと、オレにだって言い分はある、という思いが交錯して、言葉にならない。
(オレは、この先韓国でやっていく自信がないな…やはり向いていなかったのだ)
深夜2時半、ようやく解放された。
ホテルに戻ったあとも、私の1年間は何だったんだろう?と、マイナス思考がグルグルと回り始めた。(つづく)
| 固定リンク
「旅行・地域」カテゴリの記事
- ポンコツ、帰途につく(2024.10.25)
- 今日もズボンはずり落ちませんでした(2024.10.24)
- 怪しすぎるレンタルスペース(2024.10.23)
- ズボンはずり落ちませんでした(2024.10.23)
- 釜山どうでしょう(2024.09.01)
コメント