ビバ!OB楽団その2 第1部
10月10日(日)
午後1時半、開場。
ホールにお客さんが入り始めた。
410席のうち、席が埋まったのは3分の1ていどか。時期と会場が例年と違っているイレギュラーな演奏会だったので、お客さんの入りはこんなものだろう。
先に舞台袖にひかえていると、つぎつぎに入ってくる演奏者の後輩たち(というか、同期の2人をのぞいて全員が私よりも年下である。上は41歳から、下は大学1年生まで)が、「素敵な蝶ネクタイですね」と、お世辞を言ってくれた。そんなことを言われて恥ずかしいかぎりだが、「蝶ネクタイをして音楽会で司会をすること」が夢だったんだから、仕方がない。
開演の時間が近づくにつれて、どんどん口の中が乾いてきた。緊張すると、人間の口の中って、こんなに乾くもんなんだな。
こんなことで、本番が乗りきれるか?
ふと、妻の言葉を思い出す。
「さすが、本番に強いですな」
たしか、韓国の語学院の修了式で、私が語学院の全教員、全学生の前で韓国語でスピーチをしたあとに、妻に言われた言葉である。
スピーチの練習をしているときはボロボロだったのだが、本番は、原稿を見ずに乗りきった。
そして、韓国語のプロの先生(韓国人)を笑わせ、泣かせたのだ!
練習の時から見ていた妻からしたら、それが不思議だったのだろう。
そうだ、オレは本番に強いんだ!
その言葉を胸に、開演時間を待つ。
午後2時、開演。
2部構成からなる。第1部は、アンサンブルステージである。楽団の中から結成されたグループが、アンサンブルを披露するというもの。
うーむ。ひとつひとつ書くと長くなるんで、曲名だけを紹介する。
1.フルート四重奏「ドビュッシー「ベルガマスク組曲」より「前奏曲」」
2.管楽五重奏「ベートーベン交響曲第7番第1楽章より」
3.サクソフォン四重奏「アルヴァマー序曲」
4,木管五重奏「アンパンマンのマーチ」「崖の上のポニョ」
5,金管五重奏「篤姫メインテーマ」「天地人オープニングテーマ」
ドビュッシー、ベートーベンから、アンパンマン、ポニョまで。このひとつひとつに司会の解説をつけていくんだから、たいしたもんだ、オレは。…と、自画自賛。
ひとつだけ、第1部で印象に残ったことを書く。
3組目のサクソフォン四重奏は、同期生4人組による演奏だった。2週間ほど前、演奏者の1人であるミツゾノ君(団長ミツゾノ君の弟)が、「司会のネタにでもしてください」と、「アルヴァマー序曲」を選曲した理由について、メールでコメントを書いてくれた。以下に引用する。
「このたびの演奏は、平成12年卒業のサックスパートの同期生が集まっての演奏なのですが、実はこの曲、このメンバーが高校の吹奏楽部に入って最初に演奏した曲のひとつでした。その時、メンバー4人中3人が、吹奏楽の初心者だったのです。このたびのサックス四重奏によって、十数年ぶりに再挑戦の機会を得たわけですが、高校1年生の頃に右も左もわからないまま毎日練習していた曲を、今度は夜のカラオケボックスで、四人であれこれ相談しながら演奏を作りあげていったことは、とても感慨深いものがあります」
私はこのコメントがとてもいいな、と思い、司会のときにそのまま紹介させてもらった。
高校時代、わけもわからないままはじめて演奏した思い出の曲を、十数年たって再挑戦するって、なんかいいではないか。「年を重ねてからわかることって、あるよね」なんて、同期のカトウさんともオッサンオバチャントークをしたばかりだった。そもそも、OB楽団って、そのための場だったんだよな。
あとで聞いたところによると、4人の中にはすでに吹奏楽から遠のいていた人もいたのだが、ミツゾノ君が「高1のときに演奏したアルヴァマー序曲を、もういちどやろう」とよびかけたところ、4人が結集したのだという。この曲のために新たに楽器も買った、とも聞いた。なんかいい話だ。大人になるってことも、悪くないことなんだな。
その思いが込められていたこともあり、演奏はとてもすばらしいものだった。演奏を聞いている人たちにも、その思いは伝わったのだと思う。
なにしろ、まったく吹奏楽に関心のない妻が聞いていて、「第1部ではサクソフォン四重奏がいちばんよかった」と言っていたのだから、たしかに思いは伝わったのだ。
さて、第1部がとどこおりなく終了した。私は影のマイクで場内アナウンスをする。
「ここで、15分間の休憩をいただきます。休憩ののち、第2部のポップスステージにうつります」(つづく)
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